FUJIROCK EXPRESS '25

LIVE REPORT - GYPSY AVALON 7/26 SAT

井上園子

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Posted on 2025.7.26 22:56

狐にでもつままれていたのだろうか

昼間の豪雨を経て、空には霧が煙り、雲の切れ間から太陽の光が差し込まんとする夕暮れどき。井上園子はおもむろにステージへと現れた。風が吹けば揺らめいてしまいそうな、ろうそくのようににぼんやりと灯る光のような佇まいが印象的だ。

彼女のことは、吉祥寺飲み屋で偶然会った友人から勧められて以来、ずっと気になっていた。

いざ見てみたらば、歌というよりはポエット、詩の朗読に音を当てているかのような印象を受けた。爪弾くギターはひとつひとつの言葉をアシストすることに全振りしているようで、我々がこれまで体験したことのないコード進行を用い、こちらの予想の裏をかいていく。それでいて心地よい展開の奇妙さに、こちらはまんまと惹きこまれていく。

「信州信濃の新そばよりも、あたしゃあなたの傍(そば)がいい」

と、映画「男はつらいよ」で渥美清演じる寅さんが用いた都々逸(どどいつ)なども織り込んで、見る者をどんどんと深みへと誘うあたりも秀逸だ。

中盤に差し掛かったころ、サックス/フルート奏者の西内徹(にしうちてつ)が登場。昨晩のレッド・マーキーでは坂本慎太郎バンドの一員としてツヤのあるサックスと、マラカスを持っての激しいスカダンスをそれぞれ堪能したが、それとはまた別の落ちついた佇まいで、これまた新鮮な印象を受けた。井上園子曰く、「(西内氏は)3日間すべてに出演するそうです」とのこと。私は見られなかったが、T字路sのことだろう。

西内氏を迎えてからは、スタンダードナンバー”テネシー・ワルツ”などのカバー曲をはじめとして、メロディと詩が寄り添った展開へ。一点の曇りすらないその声が本領を発揮する一方で、要所にはブルーグラスかカントリーかと思わせるフレーズが顔を出す。それでいて、ライヴの全容としては、彼女の紡ぎ出す音を掴もうとしても、スルリ、と抜け出ていく感じは相変わらず。言葉と音のしっぽを「あらあら、あら?」と追いかけているうちに、いつしか虜となっている不思議さに、ただただ時間を忘れてしまっていた。

アヴァロンは、爆音を放射するホワイトステージに近く、なにかと音かぶりを受けやすいステージだ。だが、井上園子がギターのストロークを止め、口をつぐんだ際には、実際の騒音はどうであれ、必ずと言っていいほど「無音」を感じた。そんな状況をやすやすと演出できるミュージシャンなど、果たしてどれだけいるだろうか。

そうこうしているうちに、ステージの主役はささやかな感謝の言葉を述べてライヴは終了、楽屋へと引き下がることなく、流れるように撤収作業へ。ステージMCによる「日もすっかり落ちまして…」の言葉で、こちらはようやく我(われ)を取り戻した。暗くなっていることに気づかないほどに、のめり込んでいたのだった。

[写真:全10枚]

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7/26 SATGYPSY AVALON