LIVE REPORT - THE PALACE OF WONDER 7/25 FRI
FERMIN MUGURUZA
「タダイマ!フジロック!」バスクの英雄フェルミン・ムグルサ、苗場へ帰還
フェルミン・ムグルサにとって、2015年の苗場食堂以来、実に10年ぶりのフジロック。自身が率いるバンドでは、2013年までさかのぼる。彼は、今回の世界ツアーをもってして、「ライブ活動から身を引く」とアナウンスしている。フェルミンのすべての行動は、緻密な計画に基づいている。泣いても笑っても、日本で見られるのは今回のフジロックが最後となる。
開演前のバックステージでは、メンバー全員でバスク民謡を歌ったりしながら、天井知らずの盛り上がりだった。翌日の朝イチ(時間にして10時間もない)にはホワイトステージ出演を控えた主役・フェルミンは、御年62歳。今年限りでライブから引退するとは到底思えないほどにエネルギーに満ち溢れている。さあ、いよいよ開演だ。
フェルミンは、「ストラマーヴィル×フジロッカーズ」コラボの法被を着込んで、パレス・オブ・ワンダーのステージに現れた。彼もまた、ジョー・ストラマー、ザ・クラッシュの遺志を真摯に受け継ぐ者。この法被は、10年前の苗場食堂に出演した際に着用したもの…つまり、わざわざ「このためだけにクローゼットから引っ張り出してきた」ということに他ならない。つくづく、気配りの人である。
そんなフェルミンが、満面の笑みで最初に発した言葉は、極めてシンプルだった。
「タダイマ!フジロック!」
やすやすとオーディエンスから喜びのリアクションを引き出すあたり、やはり百戦錬磨の猛者である。
バンドメンバーは男女混成。地元であるバスクはもちろんのこと、スペインやキューバなど様々な出自を持ち、人気バンドのフロントマンを務めた者も少なくない。さながら、ラテン語圏レベルミュージックの「ドリームチーム」の様相を呈している。
映画監督としてのキャリアを開始するまで、フェルミンの音楽活動は、まずアルバムのコンセプトを決めて、都度メンバーをイチから招集して音源を発表、そのまま世界ツアーへと向かう、というルーティーンがあった。今回は、ライブ活動の幕引きとあって、これまでのようなコンセプトありきではない、楽しければ体全体でそれを表現してしまうような「動きが特に派手」、かつ「超武闘派」なメンバーを揃えた印象。セットリストは、これまでフェルミンが手がけてきた様々な活動でリリースしてきた楽曲の中でも、選りすぐりのナンバーが揃っていた。
スカ・パンクのコルタトゥ(Kortatu)、ラップを取り入れたミクスチャースタイルのネグ・ゴリアク(Negu Gorriak)、そしてソロ名義それぞれの時代の代表曲を歌うのは、なにもフェルミンに限らない。脇を固める女性陣がコーラス、時にはシャウト、さらにはレゲエのトースティングを発し、エスネ・ベルツァ(Esne Beltza)を率いてのフジロック出演経験もあるトリキティシャ(バスクのアコーディオン)奏者、ソラーノもヴォーカルをとったりしながら、メリハリと深みを与えていく。
フェルミンはといえば、エネルギーの塊。常にステップを刻み、ソロ回しに差し掛かったメンバーにはハッパをかけ、バンド全体のマエストロ、指揮者としての一面を見せつける。時折差し込まれる、「モリアガッテ!」など、日本仕様の煽りもお手のもの。これでもかというほどにテント内のボルテージをあげていく。ファン思いの一面を見せる一方で、歌うとなれば怒りの表情を露わにして、世界にはびこる理不尽や矛盾に対して拳を突き上げる。音楽というくくりで説明するには収まりきらない、「フェルミン・ムグルサという『生き様』」を表現していく。アメリカを中心とした強権政治への批判、虐殺が続くパレスチナの解放を叫ぶなど、その内容は実に重いものである。
それでいて、改めて音楽とは「楽しいもの」であることもしっかり認識させてくれる。演奏パートがないメンバーは、フェルミンに負けず劣らず踊ったり、自分の立ち位置から離れてまでソロパートを担当しているメンバーにちょっかいを出したりする。そんな、体全体で表現する楽しさは、生きるうえで切っても切り離せない「政治」へと興味を持たせるためのきっかけを作る手段であり、映画監督のデビュー作に「アニメ」という表現方法を選んだフェルミンの狙いも、まさにそこにある、と思うのだ。
MUGURUZA FM 1984-2024 SET LIST (@FRF’25 CRYSTAL PALACE TENT)
In-komunikazioa(☆)
Big Benat(☆)
Euskal Herria Jamaika Clash(☆)
Nicaragua Sandinista(*)
Zu Atrapatu Arte(*)
Kolore Bizia(★)
Radio Rahim(★)
Dub Manifest(☆)
Yalah, Yalah, Ramallah!(☆)
Gora Herria(★)
Sarri Sarri(*)
* Kortatu (1984~1988)
★ Negu Gorriak (1990〜1996)
☆ Fermin Muguruza(1997〜)
outro(SE) Pressure Drop by Toots and the Maytals
[写真:全10枚]