FUJIROCK EXPRESS '26

LIVE REPORT - FIELD OF HEAVEN 7/26 SUN

TĀL FRY

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Posted on 2026.7.26 18:36

音楽とビートは国境を超え響きわたる

いよいよフジロックも最終日。あっという間に迎えてしまった最終日の苗場は、またしても朝から激しい雨に見舞われた。叩きつけるような豪雨が森を包み込み、ときおり轟く雷鳴が山あいに響き渡る。フジロックらしい高揚感と、大自然の猛々しさ。その両方を全身で感じながら、最後の一日が幕を開ける。

13時を過ぎる頃、降り続いていた雨はようやく小降りになり、空気も少し落ち着きを取り戻してきた。今日もボードウォークを抜ける。木々に囲まれた遊歩道の先に待っているのは、”ヘブン”ことFIELD OF HEAVEN。深い緑と湿った土の香りに包まれた、音楽の天国へと足を踏み入れる。

ここに登場するのは、今回の出演陣の中でもひときわ注目を集める存在、インド・デリーを拠点に活動する大編成のリズム・コレクティブ、TĀL FRY(タール・フレイ)。北インドと南インド、それぞれの古典音楽に根ざした打楽器や歌を大胆に融合させ、伝統と現代性を兼ね備えた圧巻のアンサンブルで、世界各地のフェスティバルから熱い視線を集めている。

開演時刻ちょうど。淡いラベンダーから深い紫まで、それぞれ異なる紫の衣装に身を包んだ6人のメンバーがゆっくりとステージに姿を現す。まずはシタール奏者のSoumendra Goswamiが一音。独特の残響をまとったスロウでムーディーな旋律がヘブンに静かに広がる。その瞬間、待ちわびた観客から歓声が上がり、苗場の森は一気にインドの熱気に染まっていく。

やがてメンバーが順番に手拍子を刻み始め、声でリズムを唱えながらテンポを組み立てていく。披露されたのは、インド古典音楽に伝わるリズムの口唱「パダント(Padhant)」。複雑なリズムを「タ・キ・タ」「ディン・タ・ナ・ゲ」といった声で紡ぎ、自在に加速したり、一転して間を作ったりと緩急を操る。さらに声量まで巧みにコントロールし、まるでリズムそのものが呼吸しているかのようだ。初めて目にする観客も多かったのだろう。その超絶技巧に驚きと歓声が何度も沸き起こる。これだからヘブンは面白い。世界中の音楽との思いがけない出会いが待っている。

必死にその複雑なリズムへ合わせようと手拍子を送るオーディエンスの姿も見える。その熱気に呼応するように、今度はタブラが加わった。「タン!」「ティン!」「ドゥン!」。叩くだけではなく、指先でなぞり、擦り、音程までも操りながら、摩訶不思議なグルーヴを紡ぎ出していく。これぞインド古典音楽ならではの響きだ。

さらに素焼きの壺を楽器にしたガタムが「コーン!」と澄み切った高音を響かせる。そこへペルー生まれのカホン、そして北インドの両面太鼓ドーラクも加わり、リズムは一気に厚みを増していく。国や文化を越えた打楽器たちが幾重にも重なり合い、圧倒的な熱量を放つ超絶ビートが放出される。

ガタム奏者のVarun Rajasekharanがマイクを握る。「コンニチハー!」。その一言に大きな拍手が湧き起こる。「インドからはるばるここまで来られたことに感謝しています。フジロックは僕たちにとって最高の機会です」。そう語ると「さあ、一緒に踊って、グルーヴを感じて!」と客席へ呼びかける。その言葉に応えるように、観客の手拍子が一斉に鳴り響く。ステージとフロアのリズムがぴたりと重なった瞬間だった。

Soumendra Goswamiはシタールを置き、今度はジャンベを抱える。そこへタブラ、ガタム、ドーラク、カホンが次々と重なり、これでもかというほど力強いビートが繰り出される。幾重にも折り重なるリズムが渦を巻く。なんなんだ、このグルーヴは。拍子を追いかけようとしても、気づけば身体のほうが先に反応している。頭で理解する前に、足が、腰が、自然と揺れはじめる。複雑極まりないはずのリズムが、不思議なほど心地よく身体へ染み込み、場がその巨大なうねりの中へ引き込まれていた。

そこへドーラクが力強く鳴り響く。左右の打面を異なるテンポとアクセントで打ち分けながら、シンプルでありながら力強いビートを紡ぎ出していく。その響きはどこか日本の和太鼓にも通じる親しみがある。竹製フルートのバンスリが幻想的な音階を奏で、ボーカルのAadarsh M. Nairが壮大な演歌のこぶしのような歌い上げる。

そのビートに身を委ね、手を叩き、笑顔で歓声を上げるオーディエンス。その光景を見つめながら、メンバーもまた満面の笑みで演奏をさらに熱く、さらに深く重ねていく。ステージとフロアが互いの熱を受け渡しながら、一つの大きなグルーヴを育てていく。そのあまりにも幸福な循環を目の当たりにしているうちに、不思議と涙がこみ上げてきた。

このビート、この歌声、この音階。そこに苗場の森が溶け合うと、ヘブンはいつしかインドの祝祭空間へと姿を変えていた。国境も文化も言葉も軽々と飛び越え、音楽が人と人をつないでいく。ここは間違いなく、音楽の神に愛された場所だ。

ラストは、Saptak Sharma「つまり、グルーヴなんだ」と語り、Saptak Sharmaのタブラが猛烈な高速ビートで狼煙を上げる。そこへガタム、カホン、ジャンベ、ドーラクが次々と呼応し、それぞれが競い合うようにソロを繰り広げる。目にも止まらぬスピードで打ち込まれる無数のリズム。息をのむ超絶技巧でありながら、決して独りよがりではない。互いの音を受け止め、挑み、称え合うようにビートが連鎖し、巨大なグルーヴへと昇華していく。もはやここは、ビート天国だ。

最後は、カルナーティック・ヴォーカルによる圧巻の応酬へ。メンバーが次々とリズムを声で紡ぎはじめると、それぞれ異なる音色や抑揚を持つ歌声が幾重にも重なり合い、まるで打楽器の一部であるかのように巨大なビートを生み出していく。声もまたリズムであり、打楽器なのだ。

タブラ、ガタム、ジャンベ、ドーラク、カホン、そして声。そのすべてが一つの鼓動となって場を満たし、壮大なグルーヴの余韻を残してライブは幕を閉じた。観客をインドの祝祭へと誘った1時間。その幸福な余韻は、鳴り止んだあともヘブンの森に漂い続けていた。

[写真:全10枚]

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7/26 SUNFIELD OF HEAVENXSUMI