LIVE REPORT - GREEN STAGE 7/25 SAT
Fujii Kaze
苗場の森に響いた“Prema”の祈り
Basement Jaxxがグリーンステージを巨大なダンスフロアへと変えた、その熱狂の余韻がまだ残っている。次に姿を現すのは藤井風。フジロックと同じ1997年に生まれたグローバルスターが、ついに苗場に降り立つ。
開演1時間前にもかかわらず、グリーンステージはすでに人で埋め尽くされている。昨年の山下達郎を思わせる光景だ。朝の豪雨が嘘のように空は晴れ渡り、夕暮れへ向かう苗場には澄んだ空気が満ちている。ときおり吹き抜ける風が心地いい。
ステージ中央には、遺跡を感じさせるようなセット。階段の頂にはグランドピアノが据えられ、バンドの楽器が美しく配置されていく。周囲を見渡すと、フジロックとのコラボシャツに身を包んだ風民/Kazetarianの姿があちこちに見える。世界中から集まったであろう彼らだけではない。老若男女、国籍も関係なく、それぞれがおしゃべりを楽しみ、静かに開演を待つ。今、この場所で出会った者同士が自然と笑顔を交わしている。
今年は藤井風をきっかけに初めてフジロックを訪れた人も少なくないはずだ。朝の豪雨に戸惑った人もいただろう。それでも、この時間には苗場らしい風が吹き、空は美しく開けている。集まった者たちを祝福しているかのようだ。
開演前には宮川純(Key)、DURAN(G)、KOBY SHY(B)、佐治宣英(Dr)、4名のバンドメンバーが登場。‟Prema”のトラックに合わせて軽くセッションをはじめると、スクリーンには、フェス飯を頬張る藤井風の姿。眼鏡を掛けたり外したりしながら「そっち行くわ」とでも言いたげなユーモラスな映像に、会場から笑いが起こる。そのまま自然とバンドがR&Bセッションへ流れ込み、これが音合わせだったのだと気づかされた。待ち時間でさえ一つのお楽しみに変えてしまう。こういう遊び心も、いかにも風チームらしい演出だ。
開演を1分ほど過ぎ、水音が場内を包み込む。夕焼け色の照明。アンビエントなサウンド。スモークの向こうでゴスペルのように鍵盤が鳴り始めた、その瞬間だった。まさかのPAエリアからサックスを吹きながら風が現れる。客席をゆっくり歩き、‟ガーデン”のフレーズを奏でながらステージへ向かう。毎回驚かされるが、今回も期待を軽々と超えてきた。「そーらーのはーてー」どこまでも伸びるロングトーンの声が苗場の空へ溶け込み、一瞬で会場全体が藤井風の世界へと染まっていった。
続くは‟まつり”。「フジローック!」その一声だけで、この日最大の歓声が上がる。「毎日愛しき何かの祭り」「あれもこれもが有り難し」。この一年に一度の祭りに、これほどふさわしい歌はない。‟何なんw”、‟もうええわ”、‟死ぬのがいいわ”と代表曲を矢継ぎ早、かつスムーズにどんどんつないでいく。3名のホーン隊が加わった‟死ぬのがいいわ”は、ジャズや歌謡曲の香りをまとい、原曲以上に妖艶だった。真紅の照明の中、ピアノへ身を預けながら歌う姿は圧巻の一言。
‟You”で「Hello, My name is Fujii Kaze.」軽やかに自己紹介すると、広瀬未来を「ミキティー」、馬場智章を「馬場ちゃん」と愛称で呼び、バンドメンバーを紹介する。その自然体でバンドとの親密な空気に、思わず頬が緩む。そして、彼は静かに語りかけた。「幸せですか? I am happy. 幸せは自分の内側にあります。」さらにこう続ける。「夏がこれからも平和で、喜びにあふれた季節になりますように。」その願いを込めて披露されたサマーソング、‟Love Like This”は、祝祭の中にそっと送られた祈りのように苗場の山に響き渡った。
ダウンテンポで落ち着いた雰囲気の‟きらり”、‟花”と続き、夕暮れは夜へ。そして、ハイライトとなったのは‟Prema”だった。「Premaは、あなたたちの中に宿っています。」”無償の愛”を意味するその言葉を、観客ひとりひとりへ真摯に伝えていく。「内なる愛を感じて、みんなに歌ってほしい曲があります。」「Prema」のコール&レスポンスが苗場の森いっぱいに響き渡る。間奏部の大胆な転調、ホーン隊が暴れ回るように鳴り、どこまでも増幅するグルーヴ、風の締めのピアノソロ、すべてが圧巻だった。
完全に夜の帳が下りた頃、‟満ちてゆく”がはじまる。「みんな優しい。このまますくすく優しい子に育ってね。」スポットライトの中、弾き語る姿はまるで祈りそのものだった。スマートフォンのライトが一斉に揺れ、グリーンステージは静かな光の海へと変わっていく。
「幸せになってください。それだけです、本当に。」「満足することに上手になりましょう。小さなことに満足して、幸せになっていきましょう。」その言葉に、会場中から「ありがとう!」という声が返ると、風がピアノで繰り出す美しい音色とともに‟Okay, Goodbye”がはじまり、軽快に、だが場に寂しさも漂わせながらフィナーレへと向かっていく。
ラストは‟Hachikō”。DURANの流麗なギターが苗場の夜空へと駆け上がると、風はショルダーキーボードを抱え、まるでギターヒーローのように自由自在に弾きまくる。歓喜の渦の中、深々と頭を下げ、満面の笑みを浮かべながら、最後の最後まで観客へ感謝と愛を届けながらステージを後にした。
Basement Jaxxが身体を躍らせたあと、藤井風は心を躍らせた。この日、風が届けたのは音楽だけじゃない。「幸せは自分の内側にあること」「小さなことに満足すること」「無償の愛は誰の中にもあること」。そのメッセージは、ここへ集まった何万人もの心へ、静かに、そして確かに届いたことだろう。
Top Photo by 小林弘輔 and the Other Photo by エモトココロ

