さっきまでひどく降っていた雨が止んだ。雲の間からはうっすら青空も見える。まるで、これからはじまるショウの幕開けを祝福しているかのようだ。
辺りを見回すと親子で来ているファンもいる。父が、子にテクノポップおよびニューウェーブの系譜や使用機材を説明し、平沢進のライブについて力説する。19時ということもあり、疲れてぐったりした様子の子には届いていないようだ。だが、子の目が輝いた。強い光とともに「Hello Human」、「Hello亞種音」の言葉がスクリーンに映し出されたかと思えば、テスラコイルに稲妻が走る。そして、会人が登場。SSHOが奇怪な動きをし、TAZZが機械的な動きで中央へとにじり寄る。2人が揃ったのち、静かに歩いてくる平沢に観客は大きな歓声を上げた。
ステージ中央には、明和電機製レーザーハープ「輝鈴(Qilin)」が鎮座している。平沢の光線を弾く音とともに1曲目”DUSToidよ歩行は快適か?”が幕を開ける。SSHOはミキサーを操り、TAZZが美しいヴァイオリンの音色を奏でる。続いて披露された”達人の山”では、冒頭より平沢のEVOを奏でる手元がアップで映し出される。遥か先へ届いていくような(まるでヨーデルのような)平沢の歌声は、苗場の山々へ伝わっていく。光と音の美しいコントラストをもって、荘厳な雰囲気に包まれるフロア。”OH MAMA!”では、「ドアの開けざまにママはりたおせ」という印象的なフレーズで口ずさむ観客の姿ももちろんだが、横にゆらゆら揺れながら、重苦しいベースラインを奏でるTAZZの姿が印象的だ。
なぜ、平沢の音楽はこれほどまでに多くの世界を漂っているように感じるのだろうか?”ルベド(赤化)”は、タイ王国に移ったかのようでもあり、エスニックな雰囲気だ。指でなぞりながら「見よ」と遠くをみつめる平沢。逆に”パルテノン”は、夢幻世界のよう。白を基調とした照明もあって、「見上げれば白きパルテノン」と、平沢が片手を上げていくとともに、私たちもそのまま天へと高く登っていけるような気がする。
一転、テスラコイルに再び雷鳴が轟いたかと思えば、平沢が語りかけるように歩きながら登場。そう、”夢みる機械”だ。平沢の動きに合わせて観客も屈んだり、手をかざす。フロアの圧倒的な一体感が、この瞬間沸き起こった。”JULIA BIRD”のシンクロした赤い扇子のパフォーマンスは、まるで隙がない。扇子がひらく様子が雅で、それでいて白黒を基調とした衣装とのコントラストがスタイリッシュ。時折聴こえる電子音が、古風×エレクトロ的なエッセンスを醸し出して、より壮大な雰囲気を演出している。これぞ平沢とも言うべき芸当だ。
次の瞬間、すべてを蹂躙しそうな低音をバックに縦横無尽に動き回り、ギターをかき鳴らす平沢。アルミ製特有の音色を出すEVOが輝いている。平沢といえばレーザーハープ、テスラコイルを思い浮かべる人もいるだろう。しかし、それは違っているようにも思える。確かに、その2つは平沢の音楽と切っても切り離せない象徴的な存在だ。それでも、平沢が奏でるEVOの音は、他のアーティストと比べても独創的だ。メロディックで尖っている。TALBOの時代から見出して、長年ともに生きてきたのだから、当然なのかもしれない。”Caravan”から” 遮眼大師”では、それが顕著に現れていたようにも感じる。
アニメ『ベルセルク』は日本のみならず、海外でも高い知名度を誇る作品。劇中歌”BERSERK -Forces-“では、海外から来た客も荘厳なリズムに乗っている。ラストはファンファーレのようなイントロで幕を開ける”救済の技法”。アクロバティックにチェロを弾くSSHOと、落ち着いた佇まいでヴァイオリンを奏でるTAZZ。対照的な2人の姿が見どころだ。
まさにキャリアの集大成ともいうべきだった今回のライブ。平沢には何が見えているのだろう。見つめる先には何があるのだろう。分かりたいけど分からない。このもどかしさこそが、平沢進という唯一無二の世界へ何度でも足を運びたくなる理由なのかもしれない。