LIVE REPORT - WHITE STAGE 7/26 SUN
MITSKI
MITSKIが歌い、演じ、物語となった夜
3日間はあっという間に過ぎていく。2026年WHITE STAGEのトリを飾るのはMITSKI。SEには、どこか不気味なローファイアレンジの“犬のおまわりさん”。観客たちはそのメロディを口ずさみ、大合唱が起こるという、なんともシュールな光景が広がっていた。その余韻が残るなか、サポートメンバーに続いてMITSKIが静かにステージへ姿を現す。
まずは、“In the Lake”。今年2月にリリースされた『Nothing’s About to Happen to Me』のオープニングナンバーからのスタート。アコースティックギターの音色に乗せて、MITSKIの芯のある声が静かに伸びてゆく。ステージ上手にはアンティーク調のデスク、下手にはソファ、中央にはペルシャ絨毯。セットのソファに腰を下ろし、ひとつひとつの言葉を確かめるように歌う。今回のアルバムは、「引きこもりの女性」を主人公に、「家の外では異端者だが、家の中では自由である」というコンセプトに基づいている。最小限の舞台装置でありながら、空間そのものが主人公の心象風景を映しているように感じられた。
イエローにチェックのワンピースを揺らしながらデスクに座り、“Cats”。そして“Working for the Knife”では、青い照明に照らされながら、スタンドマイクを目の前に佇みながら歌い上げる。一曲ごとに表情や所作を変え、身振りひとつで物語を描き出していく。ライブではステージングの評判が飛び抜けていいけれど、確かに気が付けば彼女の一挙手一投足から目が離せない自分がそこにはいた。
“I Bet on Losing Dogs”は、切なさを帯びた歌声が会場を満たす一曲。“Where’s My Phone?”では、電話にまつわる古い映像がバックスクリーンに流れ、MITSKIがステージ上で電話を探す素振りを見せる。その一連の動きはまるで寸劇みたいで、失くしたものを探し続けるような楽曲の焦燥感や孤独が、ユーモラスな演出のなかに滲み出る。
“Heaven”、“Rules”と、静かな緊張感をまとった楽曲が続く。“I’ll Change for You”では、ピアノの音色とともにMITSKIの歌声が静かに響く。「あなたのために私は変わる」という言葉の裏側にある、愛情だけでは片付けられない重さと執着。自分を犠牲にしながら相手にひた走る感情を、彼女はまっすぐな声で浮かび上がらせていく。
全編通じて日本語でMCをするMITSKI。羽田空港に到着してすぐ、ファミリーマートで納豆巻きとカリカリ梅を購入したことを教えてくれた。先ほどまで、あれほど緻密で身体性の高いパフォーマンスを繰り広げながら孤独や葛藤を歌っていたとは思えないほど、あまりにも身近な話に思わずくすっとしてしまう。美味しいもんね、ねばねばもカリカリも。
“Washing Machine Heart”では、MITSKIがステージ上を歩き回りながら身体を揺らし、リズムを全身で表現していく。キーボードの印象的な音色と相まって、どこか不思議で可愛らしい世界へと引き込まれていった。そのあとは、繰り返されるリズムの上にベースとキーボードがゆったりと重なる“I Want You”。座ったまま演奏する2人と、不安定で切実な感情を静かに歌い上げるMITSKIの姿が記憶に残る。
個人的に何度も聴いてきた“Francis Forever”が苗場に響く。この瞬間だけは、ステージを見ているというより記憶の中にあった曲と再会したような感覚になる。雨が降り注ぐような映像がバックスクリーンに映し出された“If I Leave”。その光景に意味を刻み込むように、力強く歌い上げる。“Stay Soft”では、張り詰めていた空気を解き放ち、身体全体で感情を表現していく。“Lightning”では、強いエネルギーを放ちながら、指先のわずかな動きにまで意思が宿る。大きな動きだけではなく、静かな所作でも観客の視線を奪う。
柔らかな歌声がWHITE STAGEを包み込んだ“My Love Mine All Mine”。 “Nobody”を歌い終えたあと、MITSKIは「私に生きがいをくれてありがとう」と観客へ感謝を伝えた。その温かな言葉の余韻を残したまま始まった“The White Cat”では、声を震わせながら感情をすべて注ぎ込むように歌い上げる。最後は走るようにステージを去り、まるで物語の登場人物が舞台から颯爽と消えていくようだった。
アンコールでは“Pearl Diver”。最後まで感情を込めて歌い終えると、再びMITSKIは駆け足でステージを後にする。スクリーンには「THAT’S ALL Folks!」「Goodnight!」の文字が映し出された。
すごいものを見た。まるで一本の演劇を見届けたような時間だった。舞台装置、照明、身体表現、そして歌声。そのすべてを使って、MITSKIは楽曲の世界を現実の空間へと作り上げていく。誰にとっても忘れない夜になっただろう。
[写真:全10枚]









