GREEN STAGE, | 2012/07/27 19:30 UP

U-zhaan × mabanua

ドラムンベースにあまりにもしっくりくるが間違いなく民族楽器の音がする、ころころとした不思議なビジュアルの物体は北インドのタブラという太鼓で、演奏するのが世界一難しい打楽器ともいわれている…ということを知ったのはいつのことだったか。本場インドの音源や海外のアーティストの演奏等もいくつか聞いてはみたものの、いつの間にかタブラといえばu-zhaan、u-zhaanといえばタブラということですっかり落ち着いてしまったのは筆者だけではないだろう。

そのu-zhaanが朝霧JAMでの演奏が印象に新しいOvallのドラマーmabanuaと結成したユニットがU-zhaan × mabanuaである。この新ユニットがアバロンフィールドのトリ前を飾るとなれば(ASA-CHANG&巡礼として類似のことは何度かあるが、やはり名前がクレジットされているとなんとなく見る側も気分が変わるのだ)、しかもそれが7月27日であるとなれば、どうしたって期待は高まる。似たような思いに駆られた人も多かったのだろう。夕暮れ時のアバロンフィールドは体育座りをしたお客さんでぎっしりと埋め尽くされていた。

「こんなに人が来てくれて、ありがとうございます。もんじゅくんくらいしか来ないかと思ったら…」とお昼のアトミックカフェトークでもんじゅくんから「楽しみなライブ」として名指しされたロングパスをさらりと受けながら、ライブはスタートした。

太鼓とはいっても、個別の音程にチューニングされているものが並んでいればメロディを奏でることができる。学校の時に木琴やグロッケンを演奏した経験を思い出してもらえれば、簡単に想像できるのではないか。さらにタブラは手の腹の部分を押し付けたり向こう側にスライドさせるなどの演奏法によってさまざまな音程が表現可能で、そこにパーカッションならではの複雑なリズム描写が組み合わさって独得のタブラのサウンドができあがるのだ。タイトなリズムをキープしながらもどこか野性味があるmabanuaのドラムが絶妙に組み合わさり、いわゆる「打楽器」奏者がふたりいるとは到底思えない音の空間がアバロンフィールドに出現したのである。

タブラを使用している関係からシンプルなアルペジオで構成されている楽曲が多いものの、バリエーションに富んだ飽きさせないステージ構成はおそらく意図的に準備されているのであろう。U-zhaanはそれぞれの曲のことを「ダブステップっぽい曲」「ものすごいドラムンベース」などと呼んでいて、こうしたステージングはエレクトロニック・ダンス・ミュージック的な引き出しの豊富さと完璧なリズムによって基礎付けられていることが分かる。

ホルンを使用したり、時にはその場で多重録音をやってのけるなど見せ方も工夫がなされているが、やはりこのユニットの魅力は骨太なリズムと民族楽器ならではのオーガニックな音質、打ち込みによって構成されたトラックの浮遊間にただただ身を委ねる瞬間にあるのではないか。そこにU-zhaanとmabanuaのゆるーい漫才のようなMCが箸休め的に挿入され、ふたりのやり取りにほっこりとした客席との一体感がますます深まるというからくりなのである。

体育座りでスタートしたアバロンフィールドもがまんできずに踊りはじめる人がひとり、またひとりと増え始め、最終的には総立ちのなかで大変な盛り上がりをみせた。新しいユニットによる新しい試みに十分すぎる程満足しながら、心のどこかで「リアルタイムでトラックを操作する人がいたら、もっと立体的な空間が楽しめたかな…」というよからぬ欲が頭をもたげてしまった。

すると「やっぱりやってもいいですか」とつぶやいたU-zhaanがわざわざタブラのセッティングを変更し「U-zhaan × mabanua、そしてU-zhaan × rei harakami」と名前を告げた。もしかすると予定外だったのだろうか、演奏された楽曲は”cape”。U-zhaanの朋友であるミュージシャン、レイハラカミの名曲だ。

昨年の7月27日、ちょうどフジロックの期間中にレイハラカミは40歳という若さで逝去した。U-zhaanはレイハラカミとはじめて出会った場所がレッドマーキであることにたびたび言及しており、ふたりがユニットをはじめたと聞いた時に「フジロックで見たい!」という期待に胸を膨らませた人もまた筆者だけではなかっただろう。フジロックで受け取るレイハラカミに関する緊急情報が、出演決定ではなく訃報になるとは。全く夢にも考えなかったことである。そのレイハラカミの追悼がUSTREAMでなされたのだが、その際にU-zhaanが演奏したのもたしか”cape”だったはずだ。

あらためてその曲を苗場という場所で聞いてみて、失われた才能のあまりの大きさに呆然としながら号泣してしまった。筆者の隣の女性も泣いていた。思い出の曲に取り組むU-zhaan渾身のプレイがあまりに鬼気迫っていて、レイハラカミへのリスペクトの強さにまた泣けるのである。

「今日はぼくの友達が亡くなってから1年になります。19:30から演奏したいというぼくの希望をかなえてくれたフジロック、ありがとう」とのMCに続いて演奏されたのは”川越ランデブー”。川越にある斉藤牛蒡店の話を聞きながら「それでも、あなたに会いたいから」と手を左右に振っていると、悲しいながらも脱力してきて、笑えてしまった。ラップ的な語りをmabanuaが担当した箇所では全部話しが終わらないうちにトラックが進んでしまい、会場一杯が暖かい雰囲気の笑いに包まれていた。そしてそれは、レイハラカミの人間性や楽曲がもつ暖かさでもあるように思えた。

「mabanua。そしてレイハラカミ。」とメンバーを紹介して、U-zhaanはアバロンフィールドを去って行った。その歩みのひとつひとつが、過去のことを踏まえながら新しい力に変えて行くのである。


写真:北村勇祐 文:永田夏来
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