LIVE REPORTWHITE STAGE7/30 SAT
Cornelius
最新にして最高の、いつものCornelius
白い幕で覆われたステージでサウンドチェックが行われている22時前のホワイトステージ。僕は期待感とも少し違う気持ちを抱えながら彼の登場を待っていた。どんなライブになるんだろう?どんな表情で歌うんだろう?周りの人たちはどんな反応をするんだろう?その時僕は何を思うんだろう?いつも以上に、過剰なほどにそんなことが頭を巡っていた。
しかし起こったことだけを突き詰めていうのなら、4人はただいつものようにライブをして、僕らはただいつものように圧倒された。本当にそれだけだったように思えた。でもそのことが何より嬉しかったし、だからこそ感じられたことが本当にたくさんあった。20年大晦日の無観客配信「KEEP ON FUJI ROCKIN’Ⅱ〜On The Road To Naeba 2021〜」以来となる、Corneliusのリスタートのステージだ。
「いつも」というと少し語弊があるかもしれない。例えばフィーチャリングのmei eharaの歌を小山田圭吾(Vo / Gt)自身が歌った初披露の最新楽曲“変わる消える”は、ホワイトの音響で優雅に奏でる情感が溢れていた。ビートルズやボブ・ディランといったミュージシャンだけでなく、世界中の様々な民族が音を奏でる様子が演奏に呼応してフラッシュする“Another View Point”を筆頭に、見たことのない映像もたくさんあった。なによりオープニングの“MIC CHECK”でステージを覆う幕の向こうに4人のシルエットが投影され、続く“Point Of View Point”で4人が眼前に現れた時の胸を満たす感情を僕は言いあらわすことができない。
だがセットリストだけを見れば17年のグリーンステージから始まった『Mellow Waves』のツアーと大きく変わるものではなく、数々の新しい要素も「ただいつもそうしてるから」以上の意味はないのではないか。つまるところ「特別なこの日のために」といった何らかの意味が付加されることを(一部を除いて)徹底して避けているように感じられたのだが、それもいつものCorneliusのスタンスともいえるし、特別なことではないように思えた。
いい意味であれ、悪い意味であれ、言葉は曲解されていく。僕らはそのことを痛いほど思い知ったし、ステージ上の彼もそうなのかもしれない。だが抽象度の高い映像や言葉に揺られていると、心を巡っていた余計な解釈や推論のようなものはどんどん削ぎ落とされ、ただただライブに没頭していく僕がいた。
そのことに合点がいった時、僕はわけも分からずボロ泣きしてしまった。ああ、これがCorneliusだ。演奏と映像が生み出すフレッシュな驚きで、当たり前のように毎回トップフォームを更新し続ける、いつものCorneliusがここにいるのだ、と。横向きのシルエットが映える堀江博久(Key / Gt)のエレガントなプレイに、緩急が際立つあらきゆうこ(Dr)のスティックさばき。コーラスやベースで随所に存在感を見せた大野由美子(Ba / Syn)に、簡素な挙動に風格が宿る僕のギターヒーロー小山田圭吾。この4人が眼前で奏でている。ただそれだけでよかったのだ。
だが意味性が極めて薄いパフォーマンスだからこそ、本当にさり気なく織り交ぜられた4人の想いが鮮烈に胸を打った。冒頭で聞こえてきた「マイクチェック」「聞こえますか?」の声に呼応した拍手、幕に投影された「THANKFUL TO BE HERE FUJIROCK FESTIVAL」 の文字、あるいは“環境と心理”の映像や言葉、そして“STAR FRUITS SURF RIDER”の間奏で堀江のトランペットがホワイトステージに伸びていく中映し出された「Sound by Cornelius FROM HERE TO EVERYWHERE」。このテキストを書いている今も感極まってしまう。
そしてシームレスに移行するあらきの打音が“あなたがいるなら”だと気づいた人から波及していくように、ホワイトステージに広がっていく惜しみない拍手は僕らの想いが溢れたものに思えたし、僕が「あなた=Cornelius」と感じる以上に、4人の「あなた=観ている僕らやフジロック」という想いが伝わってくるような気がして、何度も観たこの曲が本当に特別な響きを持っていたように感じたのだ。
ノンMCでアンコールもなく演奏を終えたCornelius。映し出された「Thank you very very much, everyone.」の言葉とともに、この日唯一話した「どうもありがとうございます」の言葉が心に染み入ってくる。4人が集まり僕らにお辞儀をした時だけサングラスを外した小山田圭吾が、何を思っていたのか僕にはわからない。「笑顔で」とも「感慨深そうに」とも僕の口からは言えないし、ライブ中もなにか4人の感情を見て取れるようなことはなかったように思う。だが今日この日をともにした事実だけが燦然と輝く、最新にして最高のいつものCorneliusがここにはいたのだ。
[写真:全7枚]