LIVE REPORTWHITE STAGE7/31 SUN
鈴木雅之
メインだらけのフルコース状態のステージ
選曲、演奏、ゲスト、演出、MC、全てにおいてメインディッシュしかないフルコースみたいなステージだった。マーチン=鈴木雅之の濃厚な人生と音楽性を整理してもこれですよ?お客さん。恐ろしいアーティストだなあ。
最終的に入場制限がかかるほど続々、人が集まるホワイトステージ。まずはバンドメンバーである江口信夫(Dr)、下野ヒトシ(Ba)、知念輝之(Gt/Cho)、大井洋輔(Key/マニュピレーター)、竹野昌邦(Sax)、高尾直樹(Cho)、 DAISUKE(Cho)が登場。大井以外はブラックスーツにフューシャピンクのシャツという出で立ち。ショーのイントロダクションが奏でられる中、登場した主役はカラフルなドットが散りばめられた白いジャケット。ファンク調にアレンジされているが1曲目は槇原敬之のカバーで“SPY”。続いては「YOASOBIのふたりに愛を込めて」と、“怪物”のカバーで、彼のカバーワークスを知らないリスナーを驚かせている。ソウルやドゥーワップだけじゃない。言葉数が多く複雑な譜割りの楽曲も難なく歌う。しかも2曲とも少し傷つきやすく危うい主人公の曲だ。流れがいい。立て続けに今やTwitterの突っ込み画像ナンバー1、だが、曲も知られている“違うそうじゃない”がイントロのブラスだけで大いに湧く。アレンジはJBぽいのだが、オーディエンスは〈違うそうじゃない〉の振り付けに夢中だ。
「皆様こんにちは。わたくしがラブソングの王様、鈴木雅之です」と堂々と言い放つ辺りからすでにショーの演出に入っている。ぶっちゃけ日本一野外ステージが似合わない、なぜか。ジャケット、カマーバンド、エナメルシューズはラブソングには外せないと。ちなみに一番暑いのはカマーバンドらしい。ここで初めて鈴木雅之の生のステージを見る人?と問いかけると大半だ。「複雑な気分」と言いつつ、初見でこれだけ盛り上がることにまんざらでもなさそうだ。
熱唱に続いては切ないラブソング“恋人”、ブラックミュージックを日本で昇華してきた先人であり、先輩でもある忌野清志郎のバラードを、と“スローバラード”を濃い口味で表現。本当にソウルやファンクを歌謡曲全盛時代からヒットチャートに送り込んできた後輩の偽らざる気持ちが現れていたんじゃないだろうか。若い人々は面白がっていたけれど、私は不意に涙腺にきてしまった。天を仰ぐマーチン。サックスの竹野も思い切りブロウする。
もうすでにお腹が満たされてきたのだが、ここからがメインディッシュ中のメイン。「ソウルブラザーズ、その仲間を呼んでもいいでしょうか?」と、シャネルズ〜ラッツ&スターの盟友である桑野信義(Vo/Tp)と佐藤善雄(Vo)が加わる。ちなみにクワマンは鈴木の幼稚園の後輩、佐藤は小学校からの同級生。いろいろあったけれど、今も音楽仲間であることが羨ましい。このメンバーが揃ったら期待するのは当然で、グループ時代のヒット曲を連投。
ドゥーワップの“ハリケーン”はハリケーンと心が張り裂けそう、をかけていることに今更気づいた(笑)。作詞は湯川れい子先生である。次なるイントロはこの日一番の爆発力だったと思しき“め組のひと”。プロの作家の作品は歌詞と振り付けなどなど、キャッチーを探求した先に子どもでもいいと思えるシンプルな答えがあるようだ。作詞は売野雅勇先生(この曲は麻生麗二のペンネームで書かれている)。老若男女が「め!」とアクションする楽しさったらない。なぜみんな知っているのだ(笑)。さらに原点である“ランナウェイ”でコーラスの楽しさを満喫させてくれた。こちらも湯川先生。
さらに大瀧詠一の過去作がリイシューされるたびに話題になる“夢で逢えたら”も披露。名曲しかないセットリストが構築されている。聴いたことがない人がほぼいない上に、シティポップ再評価の軸まで持ち込めるアーティストは他にいないだろう。「こんなにもたくさんの人が初めて鈴木雅之のライブを見て楽しんでくれているって、すごいね。コロナ禍のなか、まだまだ迷ってるミュージシャンも多いけど、でもみんなのマスク越しの笑顔を見ていると、音楽は心のワクチンだと思いました」と、率直な思いを口にした彼。こういうところ、さすがベテランである。
そして、なんとソロ・デビュー曲が夏の名曲なのだ、この人は。持ってる。持ってるとしか言いようがない。大沢誉志幸の名曲“ガラス越しに消えた夏”を端正な声で届け、若者の心に寄り添うような歌詞〈さよならを言えただけ 君は大人だったね〉というフレーズが染みる。どれだけ名曲を持っているのだ、この人は。作詞、作曲家経由で80〜90年代の名曲をディグってみてほしい。
今後も曲の強さでラインナップされるアーティストが増えてきそうな予感がする。理屈抜きに楽しいから!
[写真:全10枚]