LIVE REPORTRED MARQUEE7/29 FRI
WONK
一音入魂。4年ぶりのフジロックへの感謝は演奏で。
サポートに小川 翔(Gt)とMELRAW(Sax/Gt)を迎えたライブはラブシュプリーム以来、そしてアルバム『artless』のツアーも幸運にも目撃。どちらもアルバムの生身を大切にした音像を近い時期に体験してきた。そこで実感したのは彼らの作家活動を通じて新たについたファン層の厚さだ。稲垣吾郎や香取慎吾経由のファンもいれば、Vaundy経由のファンもいる。ただしWONK自身が切磋琢磨するスタンスそのものは変わらない。いい面で言えば長塚健斗(Vo)のエンタテナーぶりや、メンバーおのおのの飾らないキャラクター、高いスキルがより広く知られたことだ。アマチュアでジャズやソウルの演奏に親しんでいるリスナーも増えた印象が強い。
WONKという重層的なバンドの生身が見えやすくなったところでの、4年ぶりのフジロック出演はだから、より興味深いものになった。ラブシュプやツアーよりだいぶ若いオーディエンスが多いであろうこの日。最近スーツでバシッと決めていた長塚、今日は湘南ボーイ風のストライプのシャツが涼しげ。でもテンションは高く、「盛り上がってくれますかー!」の一声とともにグッと踊れる“Gather Round”がスターター。小川のワウカッティングも心地よい。さらにハードなロックモードは加速して、“Migratory Bird”は歪み系のギターとMELRAWのアコギ、江崎文武(Key)はオルガン。“IF”では隣のロン毛のお兄さんがヘドバンしているではないか。
一転、“Butterfries”では江崎の重い質感のピアノに祈るように歌う長塚のボーカルが絶望的な世界で唯一の祈りのように響く。偶然だが、荒田洸(Dr)のブラシワークが際立って聴こえたとき、レッドマーキーに風が吹き込んだ。つい先程のヘヴィロックモードがゴシック的な色合いを含む。レイドバック気味のビートというより、長い道のりを歩く人の足取りを思わせる。彼らのスキルが自分の個人的な感情と触れ合う瞬間のカタルシス。この余白がWONKのライブで自由でいられる理由なのかも、と思う。
「数あるステージの中から選んできてくれてありがとう」と謝辞を述べ「めちゃめちゃ暑いじゃない?」とオーディエンスの体調を気遣う長塚は常に真顔だ。そこから全ての楽器も歌うような“Midnight Cruise”へ。全ての楽器の音が美味しい。素材のいい料理みたいにモリモリいただける。温かみが人気の最近の定番曲“Orange Mug”ではMELRAWが柔らかな風をサックスで送る。グッとレアグルーヴィにアレンジした”FLOWERS“への流れも秀逸。
「4年ぶりのフジロックのステージ、めっちゃ出たかったの!」と本音開陳の長塚に拍手が送られ、賑々しいムードになったところ、井上幹(Ba)と荒田お得意のミニマムなビート構成と長塚の口笛が余白の美をこれでもか!と堪能させる“Euphoria”。徐々にプレイヤビリティの深みに入り込んでいく。その流れのまま音のレイヤーがこことは違う世界に誘う“Fragile Ego”ではMELRAWがセンターに出てきて、荒田とソロの応酬で盛り上げる。間違いなく現代ジャズ/ネオソウル界隈のトッププレイヤー同士だ。それを見ていちばん盛り上がっているのはおそらくステージの端に移動した長塚だったんじゃないだろうか。顔を真っ赤にして、再度「こんなにお客さんが興奮を与えてくれるフェスってねえよな!フジロックを続けてくれてありがとう。このステージに立てて幸せだ!」と、喜びを爆発させる。
WONK、知るほどに音楽に現れるメンバーの個性、人柄は代替不可能な存在であることが分かる。ラストは初の日本語詞によるWONKにしては珍しい、心のお守り的なスロー、“Umbrella”がフェスの熱狂、彼らのここまでのライブとも違う空気感で静謐に届けられた。今年のタームの中でも代表曲にメリハリをつけたフジロック・スペシャルだったと思う。さまざまなアーティストとコラボするステージも、フジロックで見てみたい、そんな欲も出てきてしまった。
[写真:全10枚]