LIVE REPORTRED MARQUEE7/31 SUN
Nariaki Obukuro
重低音とコーラス、シンプルだからこそ響く美しい歌声を聴いた
ステージに温かく灯る2つのスタンドライト。下手にはコーラスの3人にベース、上手にはDJの計5人のサポートメンバーが位置に着き、ゆっくりと登場する小袋成彬。ぽつりぽつりと鳴るピアノの音にきれいな裏声、和やかな雰囲気のなか、まず演奏されたのは“Night Out”。これから日が落ちていく今の時間帯にぴったりの1曲だと思った。
鳴らされるベースの低音は容赦のないほどに重い。そこに3人の柔らかいコーラスが合わさって、小袋の放つ言葉は会場にゆっくりと落とし込まれる。時折、天まで伸びゆく裏声がどこまでも気持ちがいい。
浮遊感のあるサウンドに3人のコーラスが載せられた“Rally”と“New Kids”が終わると、軽い挨拶のあとに「ひとついいですか?今日、配信断ったんですよ。」と話をしはじめる小袋。「俺の音楽は、クーラーの効いた部屋でゆったり聴くものじゃなくて、こんなクソ田舎の苗場にわざわざ来て、Super organismを蹴ってまでこのステージに来た人たちのためにあるんですよ!」という熱っついMCには会場が思い切り湧く。
そのあとの、“Route”では、直に身体を貫く重低音に身を任せ、観客たちは各々で揺れる。音数が少なく、重くのしかかるようなサウンドと3人のコーラス、それから小袋の美しい歌声が引き立つ構成だからこそ、ひとつひとつのリリックが音楽としても耳に残る。曲の終わりに送られた長く温かな拍手は、まるでロンドンから帰ってきた小袋に向けた「おかえり」のメッセージのようであった。
きれいなファルセットを聴かせる“Strides”、ピアノとタンバリンが合わさったメロウな音に、ささやくような歌声が寄り添う“Formula”は、悦に浸るには十分すぎるほど。コーラスが華やかに響く“Parallax”が終わると、6~7月のツアーのため、3カ月禁酒をしていると話してくれた。「今日がまじのまじで最終なんですよね」「終わったらここで缶ビール開けていいですか!」という宣言も出る。フジロック最終日に聞くには辛い「生きるためには働かなきゃな」という歌詞に、リバーブの効いた歌声は“Work”だ。レッドマーキーでは音が反響し、手も挙がる。“Gaia”では、ゲストとして5lackが登場する。やっぱり来ると思ってた!2人が掛けあい、言葉をゆっくりと紡ぐ。幻想的なスポットライトに照らされ、会場は更なる盛り上がりを見せていく。
SWVのカバー曲“RAIN”ではミラーボールに照らされながらしっとり聴かせ、最後は“Butter”。メロウなコーラスが相変わらず重低音に乗せられ、疲れた身体に染み渡る。すべての演奏を終えると、スタッフが本当にビールを持ってきて、気持ちよさそうな音とともに缶を開け、美味しそうに流し込む小袋。「また帰ってきます!」という嬉しい言葉も聞くことができた。最大限に歌の魅力を引き出す構成から生まれたこの不思議な体験は、彼のライブでしか経験できないのではないだろうか。音楽の街・ロンドンでこれから何を考え、何を生み出そうとしているのだろう。ちょこちょこ日本に帰ってきてくれないだろうか……例えば、来年とかさ。すぐにでもいいですけど。そんなことを期待してしまう時間だった。
[写真:全10枚]