LIVE REPORTRED MARQUEE7/28 THU (EVE)
HELSINKI LAMBDA CLUB
Photo by MITCH IKEDA Text by 石角友香
Posted on 2022.7.28 23:06
インディロックで踊りたい。膨張した気持ちを爆発させたフジロック初陣
「フェスで踊りたいんだ」――そんなオーディエンスの膨張しきった気分を最高のメロディとリフが爆発させた、そんなHELSINKI LAMBDA CLUB、フジロック初陣だった。
DJ MAMEZUKAが今夜2回目の登場でボーダーレスな選曲を続けるこのタームの中でベースメント・ジャックスの“Raindrops”をスピン。突然の豪雨と晴天を繰り返してきたこの日にぴったりというか、もはや21時も過ぎると、フジロックらしいこのコロコロ変わる天候に慣れ始めている。ナイス選曲に拍手が起こり、すでにスタンバイしていたバンドは雨音のようなエンディングに1曲目をかぶせる……と思いきや、唐突に橋本薫(Vo/Gt)が“A-Punk”のリフを弾く!湧くオーディエンス。今夜ここにいるフジロッカーの大半は明日のVampire Weekendを心待ちにしているはずだ。橋本自身もそうだろう。だが、3秒ぐらいで「ウソです!」と言い放ち、“ミツビシ・マキアート”でレッドマーキーに真夏を連れてくる。先日リリースしたばかりのミニアルバム『Hello, my darkness』はヘルシンキらしいヒップホップとの接合を聴かせてくれたが、この日の出だしはまさにインディーロックバンドの瑞々しさ。続く“Skin”がそのムードを一層濃くする。
一旦“Khaosan”でポスト・パンクなビートとゾクゾクするようなマイナーコードのリフでダークなニュアンスに突入。薫くん(すいません、親しみを込めてロックスター橋本薫をこう呼ばせていただきたいと思います)の三連フロウっぽいトーキングボーカルも決まる。こんなにオーディエンスが跳ねたり踊ったり、ステージの方を見ずに仲間同士で楽しそうに盛り上がっているライブを久しぶりに見た。それは00年代インディーのノリでもあるし、もっと言えば90年代のパワーポップやギターポップで育ってきたリスナーにもグッとくる煌めきなはず。薫くんは念願のステージで「フジロック前夜祭から楽しむ生粋のフジロッカーと遊べて最高です!」と、嬉しさがダダ漏れな上に、自分たちらしさも刻んでやるという気迫も見せた。
後半はもたるビートと稲葉航大(Ba)の抜きの美学が冴えるファンク〜ヒップホップをバンドで解釈したナンバー“IKEA”で男子オーディエンスに「かっけー」と言わしめる。特に熊谷太起(Gt)と薫くんが空間系のエフェクトで場を埋め尽くしたエンディングは1曲の中に物語がある彼ららしい構成。スタート地点とは全然違う国に到着した感じ。さらに薫くんと稲葉が交互に歌う“ロックンロール・プランクスター”、〈試せることは試した 落ちるとこまで落ちた〉という歌詞がよく聴こえて、コロナ禍の心境を歌っているのだろうか?と思わせつつ、ピーキーな音色のソロや、ダビーな処理を施されたドラムに、そんなに平坦な曲ではないんだろうなと思わせる“収穫(りゃくだつ)のシーズン”。
ラストはまたもや夏の到来を感じさせるギターサウンドが心地よい“午時葵”。究極のラブソングだと思う。おそらくヘルシンキの音楽は憂鬱は憂鬱のまま、夏の光に誘われて外に出て、そこで自分がどう反応するのか知ればいい、なにか変わるよーーそういう態度で鳴っているんじゃないだろうか。
前夜祭マジックもなくはなかったけれど、ヘルシンキで夏が始まったオーディエンスは少なくなかったはず。今度はもっと長いセットで帰還してほしい。
[写真:全10枚]