LIVE REPORT - GREEN STAGE 7/28 FRI
THE STROKES
ノスタルジーのその先を描き出す貫禄のライブセット
昼過ぎにROUTE 17 Rock’n’Roll ORCHESTRAも演奏していたアニマルズの“朝日のあたる家”が流れる、21時過ぎのグリーン・ステージ。ステージにちょっとした動きがある度に待ちきれないとばかりに歓声があがる、ヘッドライナー前のソワソワした感じもなんだか懐かしい。ましてやあれだけ待望されていながら惜しくも中止となったフジロック’20のヘッドライナーの予定だったザ・ストロークスが、3年越しについに苗場にやってくるのだ。グリーン・ステージには、2019年以来と言ってもいいようなたくさんの人が詰めかけていた。
定刻を少し過ぎた頃、いよいよザ・ストロークスの5人が登場。もうロゴがスクリーンに表示されているだけで感極まってしまうのに、初っ端から“The Modern Age”なんてぶちこんでくるものだから、これはもうたまらない。2011年以来の来日、そして2006年以来のフジロック。本当にずっと待ってたんだよみんな。最新作からの“Bad Decisions”や続くAutomatic Stopでも、ニック・ヴァレンシ(Gt)、 アルバート・ハモンドJr.(Gt)が絡み合うザラっとしながらもカラフルなギターアンサンブルは健在で、ジュリアン・カサブランカス(Vo)のモタっとしたヴォーカルも、まさにこの感じだ。
簡素なガレージロックサウンドで何年経っても変わらないあの情感を鳴らしているザ・ストロークスが、眼前にいるこの事実。だが円熟味を増した演奏は“The Adults Are Talking”でも抜群に光っていて、ファブリツィオ・モレッティ(Dr)の跳ねるようなドラムもニコライ・フレイチュア(Ba)の無骨なピック弾きのベースも、掛け合う2人のギターもジュリアンの伸びやかなヴォーカルも、すべてが絶妙なバランスで調和しているこのバンドサウンド。変わらない良さをさらに高いレベルで突き詰めたパフォーマンスに、グリーン・ステージが酔いしれている。
“Meet Me in the Bathroom”、“You Only Live Once”と往年の名曲を立て続けに披露するザ・ストロークス。サビ前の「チチチ」はもうとろけてしまいそうなくらいで、実はかなりレア曲の“Fear of Sleep”や“Barely Legal”でもジュリアンのヴォーカルが冴え渡る。かなりモッタリとした演奏の“Under Control”のフィーリングも今の彼らだからこそ出せるものに感じたものだし、一転してノイジーな“Juicebox”で叫ぶ中でも情感というよりむしろクレバーさが際立っているようで、ジュリアンの独特のヴォーカル・スタイルはここにきてさらに深みを増している。最後の「No, no, yo’re so cold」で前のめりにマイクに寄りかかる姿がかっこいいのなんのって。
中盤“Welcome to Japan”、“Soma”、“Red Light”のあたりではいきなり叫んだり冗談っぽく他の4人と掛け合ったりと、ちょっと変なテンションになってきたジュリアン。ヴォーカルもヘロヘロしてこれまで以上にもったりとしてきたが、それがまた抜群に絵になるからニクいんだよなこの人は。例えば2012年のザ・ストーン・ローゼズのように、ここまで含めて完成系だと思えてしまうような懐かしくも心地いいグリーンの空気感がなんだか愛おしい。終盤では“Is This It”、“Someday”とこれでもかと代表曲を連発し、本編最後は“Reptilia”。ブレイクのギターでちょっとシンガロングする感じが最高じゃないですかフジロッカーズ。ガンガン踊る人もまったり聴き入る人も、グリーンに集った人々が思い思いの感情を投影する素晴らしい時間だった。
アンコール前のタイミングでモニターはグリーン最前列を映している。ロゴをプリントした大きなフラッグを柵にかけている人、アルバートの顔パネルを作ってきた人、そして『Is This It』のレコードを掲げる人…。みんなの想いが結集したこの時間も、しみじみと感慨深くなったものだ。そして再度現れた5人が繰り出したのは“Hard To Explain”!心のまま揺られる中でも、ブレイクの静寂で歓声が夜空に染み渡ったのは一つのハイライトだろう。しめやかにしっとり歌い上げた“Ode to the Mets”に続いて最後は“Last Nite”。最後の最後になんてニクい選曲だよもう…!新旧織り交ぜた集大成ともいえる充実のパフォーマンスはこうして終幕を迎えた。
本当に懐かしい思い出がたくさん去来してきたステージだったが、これはノスタルジーなんかじゃないんだ。僕らがグリーンで分かち合った、円熟味と貫禄を増したバンドサウンドに思い出が鮮やかに塗り替えられるような鮮烈な体験。それは完全復活のフジロック初日の締めにこれ以上なくふさわしいものだったといえるだろう。
[写真:全10枚]