FUJIROCK EXPRESS '23

LIVE REPORT - GREEN STAGE 7/29 SAT

ALANIS MORISSETTE

  • ALANIS MORISSETTE
PHOTO BYfujirockers.org

Posted on 2023.7.30 12:00

苗場にお帰りなさい、そして、フジロックへありがとうを

アラニス・モリセットがフジロックに帰ってくる。彼女が苗場でライブしたのは2001年のこと。つまり、22年ぶりに苗場に歌姫が登場するというわけだ。

いやぁ、アラニス・モリセットですよ。アラニスなんて、学生時代にバリバリ聴いていたクチの自分を否応なしに思い出してしまう。自転車で爆走しながら、世の中の不満にツバを吐きかけたい気分を浄化してもらっていたっけ。当時、女性ミュージシャンの作品の中でそういうロックな気分で聴いていたものは少なかったように思う。ライブ未体験勢としては青春の思い出も相まって、この機会を見逃せなくなっていた。

アラニス・モリセットは、元カレへの辛辣なメッセージを綴ったデビュー・シングル“ユー・オウタ・ノウ”を髪を振り乱して歌う姿が世界に衝撃を与え、曲の良さと高い歌唱力も相まって大ヒット。そのスタイルは、のちの女性ミュージシャンたちに多大な影響を与えた。1995年のデビュー・アルバム『ジャグド・リトル・ピル』は、グラミー賞に輝くなどその後の活躍はご存知の通り。

個人的な感覚では、当時の閉塞感のある空気に対して女性版ニルヴァーナが現れた感じというか(全然違うのは分かっているので雰囲気をくんでほしい)、退屈な現状にNoを突きつけるかのように髪を振り乱して本音を赤裸々に歌うロックなアティテュードは、退屈な音楽に飽き飽きしていた人々を魅了し、「女性でもここまで表現していいんだ」と世界中の女性たちを勇気付けていた。

少し涼しくなった夕方。グリーン・ステージの最前列は日本人はもちろん、まさに当時を知る世代ぐらいの海外のお客さんが集まっていた。開演までの静かな時間、みんな何だかそわそわ。彼女はいまどのような感じなのか、今日は何の曲が演奏されるのか。「もうすぐアラニスが目の前に現れる」ということに、いささかの緊張感が漂っているようだった。

グリーン・ステージに映像が映し出されると大きな歓声が上がった。その映像は、アラニスのこれまでの歩みを網羅するような内容で、何だかこちらまで当時を振り返ってしまい、懐かしい気分になる。アラニスは近年『ジャグド・リトル・ピル』リリース25周年を記念し、作品を再現するワールド・ツアーを行っており、もしかして今日は……?

スパンコールが輝く豹(猫?)の顔がプリントされた黄色いTシャツを着たアラニスが会場に登場すると、すぐさま『ジャグド・リトル・ピル』収録の“オール・アイ・リアリー・ウォント”がスタート。もう会場は声援と合唱の嵐。アラニスはステージを右端から左端まで常に歩き回り、くねくねと身体を揺らしながら歌う。歌声は当たり前だが力強いアラニスのままだし、彼女がハーモニカを吹けば「そうそう! この音色!」と懐かしくて興奮してしまった。

続く“ハンド・イン・マイ・ポケット”では、アラニスがフジロックに帰ってきた喜びを表すように右手を上げれば大きな歓声が上がり、“ライト・スルー・ユー”のアウトロでドラマーと掛け合いをすれば歓声が上がる。初めて観るライブのはずだが、アラニスは当時と何も変わらず元気にステージを飛び跳ねていてすべて懐かしく思えてしまった。

そして、“ユー・ラーン”で会場全体で大合唱。もちろん自分もだ。いま聴いても改めて名曲すぎる。前にいる外国人旅行者の団体も手を上げ声を張り上げている。何より強さと切なさを帯びたアラニスの生の歌声に大いにシビれさせられた。

ここまででお気付きかと思うが、この日のセットリストはそのほとんどが『ジャグド・リトル・ピル』からの曲だった。古参のファンにとってもちょっと感涙モノ。これも22年ぶりのフジロックに対するアラニスなりのサービスだろう。

ピアノのイントロが印象的で力強く展開していく“リーズンズ・アイ・ドリンク”を歌い終えると、「Thank you so much!」とアラニスは笑った。“ヘッド・オーバー・フィート”でギターを持った彼女は楽しそうにバンド・サウンドの中へと入っていく。曲後半で奏でられたハーモニカの美しい音色は、グリーン・ステージに隅々まで響きわたり、景色に溶けていく様はとても感動的だった。

アラニスは声を伸ばすときに、身体を大きく後ろに仰け反らせてマイクから口を離し、音量を調整する歌唱法をよくするのだが、そのアクションの頻度の多さや声量も含め、まったく衰えを感じさせない。むしろ、当時より歌声に優しさとテクニックを感じるのは気のせいではないのだろう。

アラニスは客席へマイクを向け、会場のみんなと“アイロニック”を歌った。この曲の演奏中、ステージのバックにフー・ファイターズの元ドラマーである故テイラー・ホーキンスの写真が映し出される。テイラーは、アラニスのメジャー・デビュー時のバンドのドラマーだった。そして、本日グリーン・ステージのヘッド・ライナーは彼の在籍したフー・ファイターズ。その意図が不意打ちを食らった心にグッときた。

そして、みんなお待ちかねの“ユー・オウタ・ノウ”。言わずもがなの大合唱。アラニスの歌声がみんなの思い出とともに夏の苗場を駆け抜けていく。最後の「You oughta know!」を会場と一体となって歌い、大歓声が起こった。「Thank you!」とお礼を述べたアラニスにみんなで最大の拍手。レポートを書かないといけないという気構えがなければ泣いていたと思う。

手を胸の前に重ね、祈るように、子守唄を歌うかのように始まった“アンインヴァイティド”の後半では一変、ドラムのリズム爆発に合わせてアラニスが髪を振り乱してグルグル回転!!! まるで『ジャグド・リトル・ピル』リリース当時のように回る彼女を観て、回転キターーーーーッ!とみんな織田裕二ばりに思ったに違いない。(当時を回想中なのでネタも古くなる)

「Thank you so much!」 アラニスは最後に“サンク・ユー”を歌い、フジロックと苗場の景色、そして今まで支えてくれていたであろうファンたちに大きな感謝を伝え、観客の顔を確認するように会場を見回してステージを足早に後にした。

終演後、前方で観ていたおじさん方は国籍関係なく、みんな少年のような顔に戻っていた。思い出に感傷的なレポートになってしまったが、それも音楽の力ということで勘弁してほしい。若い世代には彼女の歌はどのように届いたのだろうか。きっと彼女の真っ直ぐな歌が彼らの心も揺らしてくれたはず。機会があれば、その辺のところを聞いてみたい。

<Set list>
1. ALL I REALLY WANT
2. HAND IN MY POCKET
3. RIGHT THROUGH YOU
4. YOU LEARN
5. REASONS I DRINK
6. HEAD OVER FEET
7. PERFECT
8. IRONIC
9. SMILING
10. YOU OUGHTA KNOW
11. UNINVITED
12. THANK YOU

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