FUJIROCK EXPRESS '23

LIVE REPORT - WHITE STAGE 7/28 FRI

Tohji

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Posted on 2023.7.28 21:20

リアルタイムを鮮烈に塗り替える、感覚で共鳴しあった今この瞬間

東京のゲリラライブも大いに話題になり、ティーンエイジャーを中心に熱狂的な支持を集めるTohji。フジロックでいえば越後湯沢駅に所狭しと貼られたポスターも訪れる人の目を引き、初出演ながらホワイト・ステージのトリ前前という好スロットも、5月のPOP YOURSに続いてSMASHの大きな期待の現れを感じ取れるだろう。前方にも多くの若年層のファンが詰めかけている様子で、煌びやかなファッションが光っている。

音が流れ始め、大きな歓声とともにライブはスタート。だが彼はすぐには出てこない。MVや過去のライブ映像などをコラージュしたような映像がスクリーンに投影され、ソワソワした雰囲気が漂うも束の間、リアルタイムのカメラは彼を捉える。が、スクリーンに映っているそこはどこ?ステージ上にいない彼の姿に、困惑する前方のオーディエンス。振り返ると彼はなんとPAブースの前で歌っているではないか。そして“カモメ”を歌い切った彼は着ていたベールを脱ぎ捨て、一歩一歩僕らの元に降りてきた。誰かが「モーゼじゃん」と呟いたがまさにそうで、スタッフやカメラクルーとともに人ごみをかき分け、ステージに向かいながら歌う“oh boy”。掲げられる無数のスマホに、至近距離のTohji。なんて光景なんだ。

ドキュメンタリー風の映像から始まり、まさにリアルタイムでその歴史を更新していくような「何かが今ここで起こっている」鮮烈な体験にドキドキしっぱなしなホワイトのオーディエンス。PA前が最前列となり、熱心なファンだとか怖いもの見たさのフジロッカーだとかそういう境界を冒頭にしてぶち壊して混ぜ返したこの一幕は、間違いなく今年のフジロックを象徴するハイライトのひとつだろう。だがここからが凄まじかった。“Oreo”や“sugAA”、“Twilight Zone”と矢継ぎ早に繰り出す中でも、スペーシーなサウンドや思わず口ずさんでしまうキャッチーなフックなど、Tohjiのパフォーマンスはダイレクトに感覚に訴えかけてくるポップさが際立っている。歓声をあげて跳ね回る若いファンだけではなく、少し年配のフジロッカーも混ぜ返し、みんな等しく今起こっていることにゾクゾクしているのだ。天使のモチーフなども飛び交う映像も相まって、白い衣装に身を包んだ彼はなんと神々しく輝いて見えることだろうか。

そんな風に彼のパフォーマンスで印象的なのは、国境や年齢などのあらゆる境界を飛び越え、感覚だけでつながっていけるということだ。例えば「自分が遊戯王のカードだとしたらどんくらいのレア度か知ってますか?」と投げかけ、「ノーマルだって人、レアだって人、スーパーレアだって人、いや俺らはウルトラレアでしょ」とホワイトをブチ上げた“ULTRA RARE”や、「日本から来たよって人、アジアから来たよって人、ヨーロッパから来たよって人、みんな持ってんのが、We got 孫悟空 vibes」と繰り出す“GOKU VIBES”。みんながなんとなく持ってる直感を巧みにくすぐり、“俺らみんなが”とここにいる全員を巻き込んでいくたくましいバイヴスに、ホワイトは打ちのめされっぱなしだ。

そして「When I say Mall, you say Boyz」とコールアンドレスポンスを巻き起こし、彼自身も所属するMall BoyzのgummyboyとアートディレクターのYaona Suiが登場。ホワイトの音圧ごと堪能する“My Life”も然り、みんなで軽く踊る練習をしてから始まった“mango Run”や“Do u Remember Me”でも、あまり上手く踊れなくても軽いフットワークで同じ感覚を共有することが重要なのだろう。Yaona Suiは妖艶な足取りで歩きながらステージから僕らを撮影している様子で、その佇まいにもなんだかゾクゾク。トリップしそうなノイジーな映像にもやられた“Slomo”、プリンスホテルでさっき完成したという新曲“aglio e olio”、「関東から来た人、関西から来た人、東北、北陸、南の方…、違うのよみんな海から来ました」とホワイトを湧き上がらせたキラーチューン“Super Ocean Man”と、一瞬の隙もなく感覚を研ぎ澄まされ続けるようなパフォーマンスに僕らは心のままに踊っている。

でも同時に僕は、彼が持つ寂寥感やどこか満たされない渇望、孤独、そういった言葉にしがたいモヤっとしたものを感じていた。コロナ禍で誰もいない高速道路で車を走らせ、侘しいショッピングモールを歩く中でイマジネーションが広がったという“ねるねるねるね”や、事故って生還した時の感覚やお父さんとの思い出をウルトラマンのモチーフになぞらえた“m78”など、ぽつぽつと語る想いが歌を通して僕らの心の奥底にふと触れてくる。そしてそんなエネルギーがたどり着いたのは、最後に披露した“I’m a godzilla duh”。アンビエントな音像と真っ白のスクリーンがフラッシュする中、一番最初に作った曲で当時は誰も聴いてくれなかったという彼の歌は、淡々とつぶやくポエトリー調ながら、“叫び”のようにも感じられた。

万感の拍手の中、あっさりとステージを後にしたTohji。初出演にして伝説と言ってしまっても過言ではないほどの衝撃のパフォーマンスを見せてくれたが、きっと彼はまだまだ満足していないだろう。今日の出来事も冒頭の映像のような歴史になり、彼はまた予想もできない未来を作り上げていくのだろう。だが感覚で通じ合ったプリミティヴなステージを通して、彼は“ティーンエイジャーのカリスマ”という偶像ではなく“ここに集った僕らの仲間”だと感じさせてくれた。それは決して大袈裟なんかじゃない。たったひとつの境界もなく苗場の地をポップの渦に巻き込んだ彼がしきりに口にしていた「飛び降りろ!」という言葉が、晴れやかに僕の心にリフレインしていた。

[写真:全10枚]

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7/28 FRIWHITE STAGE