LIVE REPORT - RED MARQUEE 7/29 SAT
d4vd
傷ついた心という普遍性
日中のレポートは「暑い」から始まっている感があるが、実際、水分補給が筆頭要件になるほど今年の暑さは容赦ない。屋根はあるが、RED MARQUEE内でもなるべく日陰を探して場所を決める。
にわかに日本でも知名度上昇中のd4vd。作品ではティーンエイジャーの傷つきやすい心をダークな世界観で描いているが、驚くのは彼が10代のアフロアメリカンだということだった。もちろん、フランク・オーシャン以降、インディーミュージックと共振するR&Bやヒップホップのアーティストは数多く出現したけれど、d4vdの場合、さらにシンプルなトラックでオーセンティックと呼んでいいほどメロウな作品を作ったり、インディーギターポップを作ってきたからだ。それは彼が特定のシーンに関わらず、iPhoneの音楽制作アプリでトラックを作り、歌は妹のクローゼットで録音するという、ベッドルーム、もしくはゲーマー界隈の住人だったからに他ならない。
だが、プロップスが上がって以降、というか、ファンを目の前にしたライブを積み重ねるごとに、フィジカルに重きを置いたライブをするようになったんじゃないかと思うのだ。ステージにはドラムセットとキーボード、ギター。サポートミュージシャン2名とともに、生音も存分に入ったトラックに乗せてアクトする。1曲目の“You and I”ではパンク/ハードコアのボーカリストのように動き回り、フジロックに出演したことが相当嬉しいようで、アクセントもバッチリの日本語で「行くぞ!」と煽る。この辺り、日本のアニメでそのトーンに親しんできたからかもしれない。立て続けにモダンなラウドロックテイストの“Bleed Out”では何とバク宙まで披露する身体能力の高さ。ファルセットのロングトーンがグラマラスな“Placebo Effect”と、激しいアクションで初見のオーディエンスを引き込んでいく。
序盤のトップギアから、どちらかというと本領発揮なミディアムからスローの、じわじわ迫ってくるナンバーを続けて披露していく。悲しげなアコギのアルペジオが心象を表すような“Don’t Forget About Me”、さらに内省的で、しかし彼を象徴するような“Sleep Well”と、序盤のテイストとは相当な振り幅を見せながらライブは進行。そして、海外のライブでも披露していた新曲“Rehab”では再びクランチなギターが空間を刻み、8ビートがさまざまなオーディエンスを鼓舞していく。フロアの熱気が彼に送り込まれているようで、着ていた”血飛沫柄”のシャツを脱いでオーディエンスに投げ込んだ。
1曲終わるごとに感謝を述べたり、日本に来られたことに感激を隠せなかったり、曲の説明をしたり、ライブ全体の流れや演出より、生身で今ここにいる人に対峙することを優先するようなステージ運びを見せるd4vd。その方向性もライブパフォーマンスも今後まだまだ変わっていくかもしれないポテンシャルを感じさせるものだった。
終盤も彼の持ち味である深く耽溺するような曲を連ね、ラストはd4vdの存在がクローズアップされた“Romantic Homicide”で締めくくり。当初、インスタグラムのストーリーにアップしたところ、1日で120万回再生されたこの曲がいかに同世代の心を掴んだか。失恋という、人格や人生に大きな影響を及ぼすテーマももちろんだけど、これからの彼が何を音楽の中で描いていくのか?すでに気になり始めている。
[写真:全10枚]