LIVE REPORT - RED MARQUEE 7/30 SUN
FKJ
Posted on 2023.7.30 22:50
作品の成り立ちのプロセスを味わうように...
甘い。甘すぎた。FKJのライブがではなくて、前の原稿をうまく切り上げられず、ほぼ開演時間に駆けつけたRED MARQUEEは入場規制なんていうのが生ぬるいぐらいの混雑っぷり。待機列に並んで10分後ほどでようやく入場。しかし全然見えない。後方から背景のビジョンとなんとなくどんな楽器が並んでいるかが分かるポジションで立ち止まると、トラックを走らせながらさまざまな楽器を手に取りルーパーで重ねていっているようだ。曲は”Risk“。重ねると言っても今年のアクトの中でもその選び抜かれた音の少なさは筆頭だろう。普通におしゃべりできるぐらいの圧のない音像だ。サウンドの構築もスタイリッシュなら、背景の映像もまたスタイリッシュ。ゆるく体を揺らす人と、FKJの行動をガン見する人のテンションの違いがすごい。
オリジナル楽曲以外にアル・グリーンのリアルタイムなリミックスなのだろうか?名曲に彼ならではのプレイで上物を加えていくのだが、リミックスだと、よりFKJのミュージシャンとしてのセンスが分かる。他にもPhoenixのリミックスなど、“ひとりでなんでもやるマン”と呼ばれるマルチプレイヤーの彼がどういうプロセスでアレンジを施していくのが眼前で繰り広げられた感じなのだ。これは面白かった。
ただ、機材トラブルが何度も起きたのは正直、かわいそうになるぐらいで、メロウなピアノに大きな歓声が上がった“Way Out”が映像もフリーズしたりして、せっかくの流れが台無しに。映像がまた美しく、ピンク色の背景にシルエットの鳥のアニメーションが舞い、ピアノの揺蕩うメロディと見事にシンクロしていたのだ。これが何度もぶった斬られるのだが、怒りを表すでもなく、何度も演奏を再開するFKJに拍手が起こる。不本意な拍手だろうが、最終的にライブを完遂してくれたことには感謝する他ない。
今回はキーボードやシンセ、ギター、ベース、サックスが並ぶセットで、コーチェラの配信で見られたようなリビングルーム風のセットではなかったが、“SMTM”と、それをリミックスするタームはどのように楽器を重ねていくのかが、ビジョンに投影され、チルな音楽にも関わらず、高い集中力で音を重ねているプロセスが見られたのは嬉しい。
ジューン・マリージーをフィーチャーした“Vibin Out”、アニメーションでMasegoが登場した“Tadow”と、彼の名前を知らしめたナンバーが続く。ピアノに向かい合ったところで、くるか?と思ったら、やはり代表曲“Ylang Ylang”だ。ギュウギュウ詰めのRED MARQUEEがそれでもウォームな空気を保ち続けたのはFKJの音楽性ゆえだろう。ただ洒脱なだけでもない、不思議なメロディを孕んだ彼のピアノのメロディの中毒性。さらにライブで演奏しているからこそ実感するピアニストとしての技量の高さ。しかしこんなにシネマティックな曲がポピュラーな人気を獲得してるという時代性たるや。2020年代のフジロックを象徴する演奏だったのではないだろうか。
続けてピアノナンバー“Sundays”で、そのメロディのオリジナリティに心酔させたあと、何も告げずに坂本龍一の“メリークリスマス・ミスター・ローレンス”を弾き始めた時の怒涛のような歓声はRED MARQUEEのキャパシティとは思えないボリューム。後ろにいたカップルは叫び、女性は涙声になっていた。教授が亡くなった際の海外の公演で予定になかったこの曲を披露したことは知っていたが、やはり今日も演奏してくれた。今回のフジロックでは他のアーティストもYMOへのオマージュをライブで表現していたようだが、ピアニストであるFKJにとって、教授はよりリスペクトを捧げる存在なのかもしれない。このカバーも今年という歴史上の地点を象徴していた。
とても親密なライブだったからこそ、遠くない未来にじっくり味わえる形のライブで来日してくれることを願ってやまない。
[写真:全10枚]