FUJIROCK EXPRESS '23

LIVE REPORT - FIELD OF HEAVEN 7/30 SUN

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3日間の疲れを癒す極上のフォークトロニカ体験

それは、幻想的な終幕の始まりだった。

フジロック2023最終日、その最後の夜。闇夜の森で、ヘッドライナーのライブは“Higher”から始まった。アウスゲイルはキーボードを弾きながら、夜空に響きわたる柔らかな声で高らかに歌った。青く照らされた光の中、イントロはポップなのにどこか切ない音色の“Borderland”が奏でられると、タイトなドラムが物語を走らせていく。アウスゲイルの後ろにはギター、キーボード(またはベース)、ドラムのプレイヤーが並び、静かな夜のグルーヴを高めていた。

“いつも通り”のフジロックを3日間全力でやり切った2023年の苗場に、「How are you doing?」と、アウスゲイルは6年振りに帰ってきた。過去2回はいずれもホワイト・ステージでのライブ。今回は、皆さんお待ちかねのフィールド・オブ・ヘブンで大トリというわけだ。大きいステージでのライブも最高だが、アイルランドの透き通った空気を感じさせる旋律と彼の優美な歌声を、静寂の森の中で楽しめるのはベストなのではないだろうかとつい考えてしまう。最終日の深い時間にもかかわらず、同じようなことを考えたフジロッカーたちが最後の夜を最後まで楽しむために続々とこの奥地に集まっていた。

アウスゲイルは、アイスランド出身のシンガー・ソングライター。ほとんどの楽器を自らプレイでき、フォークトロニカ(フォーク+エレクトロニカ)のスターだ。2022年に、4枚目のアルバム『Time On My Hands』をリリース。コロナ禍の中、自身を見つめ直すことをテーマとして、繊細に構築されたフォーク・ポップ作品となっており、今回のライブは6年振りとあって、最新アルバムを含む新しいアウスゲイルが観られるのではと期待は高まっていた。3日目のラスト、最奥地のヘブンで彼のライブを堪能するなんて、こんな贅沢な時間があるだろうか。

アウスゲイルは続いて、“Dreaming”をプレイ。シンセサイザーが幻想的な空間を描き、タイトなドラムがときに激しく感情を盛り上げる。“Summer Guest”では、カントリー・ミュージックのような心地よい音楽をギターでつま弾き、観衆を笑顔にさせた。“Peð”は寂しさが募り、夢の終わりのようなメロディだが、ドラム・ビートの高まりとともピアニカに近いような掠れたシンセのロング・トーンが心地よい音色を生み出していた。アウスゲイルによるシンセサイザーの音のこだわりを存分に味わうというのも、実りのある音楽体験になりそうだ。

演奏が終わり、アウスゲイルは「Thank you」と観客たちへ静かに話しかけた。ライブを通して、彼はほとんどMCをせず、淡々と曲をプレイしていくが、それが森の闇と相まって没入感を高めてくれた。

フォークトロニカは、荘厳なエレクトロニカと美しい音色のアコースティックなサウンドが重なり、屋内でゆっくり聴く音楽として、北欧の音楽シーンで人気のあるジャンルだ。インストゥルメンタル色が濃く、内省的なその電子音楽は厳かで落ち着いた曲調が多いので、夜のヘブンのような自分と向き合える場所で聴くにはピッタリだ。

メロウな名曲“Waiting Room”では、アウスゲイルはスポットライトを浴びて、ギターを弾き、そのメロディの良さに観客は酔いしれた。“Lazy Giants”はアーバンなサウンドに、どこか80年代を思わせるシンセサイザーの響きが特徴的でテンションが上がる。一度聴いたら耳に残るそのフレーズは、観衆からもひときわ大きな歓声が上がっていた。

“Vibrating Walls”の音が鳴れば、フィールド・オブ・ヘブンの闇に揺れるフジロッカーたちは身体を揺らすスピードを静かに速めた。この曲は、インディー・ポップ・バンドのスーパーオーガニズムによるリミックスVer.がYouTubeに公開されて話題にもなった。低音のリズムが効いていて、夜更けとともに身体を包み込むような感覚に襲われる。

アウルゲイルの曲は荘厳なエレクトリカだけではなく、高揚感のあるメロディとドライブするドラムが爽快な“King and Cross”や、開放感のある「higher and higher」のフレーズが美しい“Snowblind”など、気持ちを直接押し上げてくれる曲も多い。“Snowblind”の後半ではセッションは激しさを増し、その熱量を上げ、低音強めのシンセサイザーの音色も美しかった。

最後は「Last one tonight」とアウスゲイルが終演が近いことを伝え、“Torrent”で美しい音色を奏でて締めた。大歓声に包まれるフィールド・オブ・ヘブン。あっという間だったが、実に彼は計19曲もたっぷり演奏してくれていた。雄大な自然に溶け込むかのようにメロディに浸り切り、どおりで夢心地だったわけだ。しかし、会場のフジロッカーたちは、彼の甘美な音像世界とフジロックの夜をまだ終わらせたくないと、ステージに向かって拍手を続けた。

すると、「Thank you」とギターを持ってアウルゲイルが1人で再登場! 割れんばかりの拍手がヘブンに響いた。アンコールで1曲と、彼はギターのチューニングを終えると、美しく優しいアルペジオをつま弾き、まだ眠れぬフジロッカーたちへの子守り歌のように静かに、そして柔らかく歌い上げ、ヘブン最後の夜は幕を下ろすのだった。

アウスゲイルの澄みわたった音像は、闇夜の森で疲れた身体を静かに癒し、英気を与えてくれる極上のライブ体験となった。また来年もフィールド・オブ・ヘブンでこんな体感がしたいと思わされてしまうのだった。

いやぁしかし、こんな奥行きと深みのあるライブはぜひ寒いシーズンにも観たいし、秋冬あたりに、アウスゲイルと日本のsleepy.abで北国対バンなんてのも良いかもしれない。ともに荘厳な自然を感じさせる音像で相性がいいはずなどと勝手な妄想を膨らませつつ、こうして激闘だったフジロック2023の3日間は終幕し(まだまだ朝まで他のステージではライブはあるものの)、幻想的なシンセサイザーの残響音とともにホワイト・ステージは静かに眠りについた。

<Set list>
1. Higher
2. Borderland
3. Dreaming
4. Lifandi vatnið
5. Summer Guest
6. Like I Am
7. Peð
8. Waiting Room
9. Head in the Snow
10. Lazy Giants
11. Youth
12. Breathe
13. Vibrating Walls
14. King and Cross
15. Snowblind
16. Going Home
17. Bury The Moon
18. Until Daybreak
19. Torrent

[写真:全10枚]

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7/30 SUNFIELD OF HEAVEN