FUJIROCK EXPRESS '24

LIVE REPORT - GREEN STAGE 7/28 SUN

RUFUS WAINWRIGHT

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Posted on 2024.7.29 02:58

悲しみの雨に濡れながら

最終日の昼過ぎのグリーン・ステージ。前方エリアはまばらなものの、多くの人が椅子を広げて過ごしている。2020年の中止の際にラインナップされていた時から、ずっと待ち望んでいたライブがこれからはじまる。「今年は彼のために来た」という声をちらほら聞いたし、僕もずっとここで観たかった。フジロック初出演のルーファス・ウェインライトの登場だ。

素肌にジャケットという装いであらわれたルーファス。“Agnus Dei”では、細やかなピアノの重厚な音像が荘厳な雰囲気を醸し出し、歌声がグリーンの木々たちにこだまして空に抜けていく。日本語で「みんな元気?」と語り、ピアノのアルペジオがみずみずしい“Montauk”を感じ入るように歌うルーファスに、うっとりと聴き入るオーディエンス。シンプルなピアノの弾き語りで、広いグリーンにこれほどの雰囲気をつくりだせるシンガーもなかなかいないだろう。

アコースティックギターに持ち替えると、“Out of the Game”、“Gay Messiah”を続けて披露。ざっくりとした指弾きのとてもシンプルな弾き語りだが、何一つ余計なものがない甘美なメロディと伸びやかな歌声の説得力が沁みてくる。ピアノに戻った“The Art Teacher”でも、息を呑むような情感が今にも降り出しそうな空模様のグリーンを包み込む。

日本語で「一緒に落ち込もう」とルーファス。一瞬どよめいたが、ストレートにそう言えるのがあなたらしい。不穏なスローナンバー“Early Morning Madness”でどんよりとした雰囲気に浸ると、「ロンドンのミュージカルで大成功して、この頃はかなり忙しかったんだよ。採算的には完全に失敗だったけど」と冗談のようにさらっと語り、またもやどんよりと暗いアコギ弾き語りの”Ready for Battle”。こんなにもの悲しさが滲むグリーンのライブなんてこれまであったんだろうか。

レナード・コーエンのカバー”So Long, Marianne”をシンプルなコード弾きで歌う姿は、どこか古き良き牧歌的なあたたかさがあったが、今は失われたものというニュアンスをそこはかとなく漂わせている。ピアノに戻った“Poses”では手を振り上げ揺れる人もいたが、なんだか気分は晴れない。この辺で雨が降ってきてレインコートを着る人がちらほらいたが、なんだか僕はもう一緒に濡れていたい気分だった。

そして日本語で「一緒にハッピーになろう」とルーファス。どうやら日本語MCのメモを用意しているらしく、こういう姿も健気というかなんというか。かわいらしいピアノが映える“Cigarettes and Chocolate Milk”でも、力なく笑うようなもの悲しさはかえって際立って感じられたし、「カモン、カマラ・ハリス!」と語り披露した“Going to a Town”で、もうこらえられなくなってしまった。「I’m so tired of you, America」と歌うあなたの、祖国アメリカへの憂いが痛いほど伝わってくる。雨は少し強くなってきたが、もう意地でも濡れていたかった。

最後に「素晴らしいあなた方にこの曲を残すよ。聴いたことがあると思うよ」と語り、レナード・コーエンのカバー“Hallelujah”。なんて清廉で穢れのない弾き語りなんだろうと感じれば感じるほど、あなたの悲しみが滲んできてもう涙が止まらなかった。

こんな風にストレートに悲しみを共有できるシンガーがどれほどいるというのか。でも何度も日本語で「一緒に」と言ったあなたとそんな気持ちを分かち合えたことがなによりの幸福に感じるし、そこには不思議と希望が灯っている。僕はすごくあたたかいものを感じながら、心からの拍手で彼を見送った。フジロックに来てくれてありがとう、ルーファス・ウェインライト。

[写真:全10枚]

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7/28 SUNGREEN STAGE