エリカ・デ・カシエール。デンマーク出身のシンガーソングライター兼プロデューサーだ。彼女がなぜ今注目されているのか？それは、今世界的に大ブレイクを果たしているK-POPグループ NewJeansのEP『Get Up』の制作に参加し、中でも評価の高い ”Supershy” をエリカが作っているから──だが、しかし、彼女が注目の存在に値する理由はもうひとつある。結論から先に言おう、その理由が今日のライブに全て詰まっていた。

彼女のステージセットは、ステージ下手側にドラムセットが、上手側に椅子が一脚置いてあるだけというシンプルなもの。開始時間になると浮遊感とヘヴィなビートが混在したトラックをBGMにサポートドラマー入場してきた。すると間も無く、ハープの音のイントロが印象的な “Right This Way” からライブはスタートする。イントロが終わるとエリカ・デ・カシエールが登場。リラックスした雰囲気の中に様々な音色を感じるこの曲から、彼女がいかに幅広いジャンルから影響を受けているかがわかる。

ドラムビートに合わせて緩やかに踊り歌う“Test It”、椅子に座りながらしなやかなヴォーカルを披露する“Polite”と、緩やかながらもハードなビートにオーディエンスから立て続けに歓声が上がる。続く、愛する人の魅力を温かな一枚の写真に喩えて歌った“Photo Of You”では、背景にカメラを覗いた中に表示されるフレームのような映像が映し出され、曲中にレッド・マーキーのオーディエンスがリアルタイムに映し出される──これはエリカからの「あなたたちも愛する人たちなのよ」と言うメッセージなのだろうか。ロマンチックな雰囲気が出来上がりゆったりしたムードが広がる中、それをぶち破るように次の曲が投下された。

彼女の一番の代表曲“Lucky”だ。昨今UKで再評価の機運が高まってきているジャングル／ドラムンベースのビートが際立つこの曲で、オーディエンスのテンションは一気に上がる。言ってみれば超オシャレなエモ・ジャングルな曲なんだが、ここで圧巻の凄みを見せたのがサポートドラムの「人力ジャングル/ドラムンベース」だったのだ。あちらこちらから聴こえる感嘆の声、このパッケージをクリエイトするエリカのセンスに脱帽だ。

冒頭に「彼女が注目の存在に値する理由はもうひとつある」と書いたが、その理由はまさにここにあったのだ。そう、彼女が鳴らしている音楽は、現在の潮流にある「オルタナティブR&B」と呼ばれる新興ジャンルで、フランク・オーシャン、ザ・ウィークエンド、そしてSZAらに代表される、従来のR&Bのスタイルに留まらず様々なジャンルを巧みに取り込み、自分流にブラッシュアップしたジャンルのことだ。そんな中に入りつつあるのがエリカ・デ・カシエールというわけだ。

実際彼らのような新世代が鳴らすR&Bはシンセサイザーを基調としたチル＆アンビエントなものが多く、ヴォーカルには深いエフェクトが施されていることが多い。“Lucky”の後に披露された“Little Bit”などもその特徴が強い。メロウなメロディラインのバックで鳴るのはハードめな変則ビートで、なんとも掴みづらいリズムを追うように身体を踊らすのが楽しい曲だ。アメリカフロリダ州タンパベイ初のプロダクション／ラップ・デュオ、ゼイ・ヘイト・チェンジとのコラボ曲“ice (feat. They Hate Change)”もまた、モダンR&Bサウンドと2000年代初頭のエレクトロニカが融合したラグジュアリーな曲で、背景に映し出された「Facetimeで会話しているようなていでラップするゼイ・ヘイト・チェンジのアンドレ・ドレー・ゲイニー」とのやりとりはその光景も相まって、メロディもグルーヴも視覚効果も楽しい。そんな空間を生み出した。約1時間のステージはリリースされたてほやほやの新曲“Bikini”のジャングル/ドラムンビートでオーディエンスを上げきったまま、終演を迎えた。

次、エリカが日本にやってくるときには、さらにビッグなシンガーソングライター兼プロデューサーとして帰還することを期待したい。

＜セットリスト＞
01. Right This Way
02. Test It
03. Polite
04. Photo Of You
05. Lucky
06. Lifetime
07. Little Bit
08. Believe It
09. Home Alone
10. Someone
11. ice (feat. They Hate Change)
12. Do My Thing
13. Ex-Girlfriend (feat. Shygirl)
14. e-motions（Mura Masa & Erika de Casier song）
15. Call Me Anytime
16. Bikini（Nick León & Erika de Casier song）- new song