LIVE REPORT - FIELD OF HEAVEN 7/26 FRI
上原ひろみ Hiromi’s Sonicwonder
「流麗」という言葉は彼女のためにある
フジロック初日も早くも終わりの時間を迎えようとしている。とっぷりと陽も暮れ、ミラーボールが周囲と照らすここはフィールド・オブ・ヘブン。本ステージのトリを務めるのは、複数回フジロック出演歴を持つ日本が誇るピアニスト、上原ひろみだ。昨年リリースしたアルバム『Sonicwonderland』を吹き込んだ新プロジェクトのHiromi’s Sonicwonderの布陣で姿を見せることになっている。
開演時刻になると鮮やかな黄色のドレスの上原が3名のメンバーを伴い登場。大歓声を浴びた後に静寂に包まれる。ステージのはじまりを告げる緊張感とワクワク感でいっぱいの瞬間。私にとっては初めての体験となる上原ひろみの生演奏だ。これからここでオーディエンスを巻き込んでどんな場を創り上げるのか、楽しみでならない。
上原がピアノを軽快に弾ませ、トランペットが鳴り響くと“Wanted”からキックオフ。のっけから立ち上がって繰り出される超絶技巧に息をのむ。思わず笑いが出てしまうほどのもの凄さ。その辺のロックバンドなんて目じゃない熱さほとばしる音の塊が次々と全身にぶつかってくる。激アツだ。中盤もトランペットやベースのソロを支えているようでいてピアノの音が実に太く、重い。ピアノがリズムセクションであり、打楽器であるということをまざまざと実演をもって実感させてくれる。そしてあの鍵盤を打つ指の速さ!どうやったらあんなに早く指が動くのだろう?「流麗」という言葉は彼女のためにある。これが世界を問答無用に唸らせてきた音か。初っ端から完全にぶっ飛ばされてしまった。
キーボードでかつてのニュー・ウェイヴなニュアンスとビートを挿し入れ疾走感を伴ってはじまった“Sonicwonderldnd”。遊園地やロールプレイングゲームのようなイメージで創られたという最新アルバムのタイトルトラックだ。カラフルな照明も軽快に流れる音調を引き立て、R & Bも踏まえたロックな質感もある。バンドもオーディエンスもノリノリだ。上原が3台の鍵盤を駆使して縦横無尽に今ここにある音楽をリードしていく。身体を揺らせるオーディエンスのグルーヴまで飲み込んでしまうような怒涛のアンサンブルだ。ラフマニノフの“熊蜂の飛行”のようなフレーズを不協和音たっぷりかつフリーキーにキーボードとピアノで嬉々として叩き出す。子供のようなどこまでも無垢な自由さが弾けている。
“Polaris”から“Up”、“XYZ”と急行直下と呼んでもいいほどの緩急をつけながらステージが進行。アンコールを2曲もやる大サービスで、ラストに「もう1曲!」と繰り出されたのはまさかの新曲。スカを思わせるようないなたいフレーズとバックビートを刻み疾走していくという彼女にとっても新しい挑戦の一曲なのではないだろうか。初日ヘブンを心地よい空気と共に極上の夜を彩り締めくくってくれた。鳴り止まない大歓声がいつまでもそこにあった。
[写真:全10枚]