LIVE REPORT - FIELD OF HEAVEN 7/26 FRI
CHIP WICKHAM
紳士のモダン・ジャズ
朝方の天気からずいぶん気温が落ち着いて、ほどよく過ごしやすい午後17時ごろ。リラックスムードなフィールド・オブ・ヘブンに現れたのは、ヨーロッパのジャズシーンで活躍するチップ・ウィッカムだ。GoGo PenguinやGondwana Orchestraを率いるマンチェスターのジャズ・レーベル「ゴンドワナ」からのリリースや、今年4月に発売された日本独自企画盤などが話題を呼んでいる。
ステージには、左側奥よりキーボード、ウッドベース、ドラムの順で並び、手前は左からトランペット、チップ・ウィッカム、ビブラフォンが並ぶという6人編成だ。チップが登場し高らかにアルトサックスを鳴らすと“Cloud 10”が始まる。1音目からハウリングが起きてびっくりしたが、彼らの前のめりな姿勢から起きたハプニングかもしれない。彼のサックスは重厚かつ艶やか。サングラスをかけていてその表情は読み取りにくいが、おでこに皺を寄せて吹く姿も、どこか落ち着きのある佇まいだ。
“Tubby Chaser”ではフルートに持ち変え、どこか和笛っぽいエッセンスを漂わせながらプレイしていく。ちょっとエフェクトをかけているのかはわからないけれど、透明感のある不思議な音の質感が耳を駆け抜ける。途中、片手でフルートを抑えながらもう片方の手で観客を煽りだしてびっくり。最後はフルートを刀に例えて、鞘に収めるジェスチャーでシメ。あまりにもウケたからか、おちゃめに笑いだすチップ。とても可愛らしい人だ。
メロウな“Mighty Yusef”では、トランペットのソロが光る。暖かい吐息でなめらかに音を運び、繊細なガラスを取り扱うかのように慎重に曲が進行していく。ウッドベースがずしんと響く“Interstellar”では、スペイシーなキーボードソロがフィールド・オブ・ヘブンを宇宙空間に染め上げた。
ここからの2曲は特に素晴らしかった。“Winter”は、極限まで音数を抑えていて、音源の印象よりもはるかに静かな、深い苗場の雪を想像させた。ヘブンで見ることのできる手数の多いジャズ・ミュージシャンとはまた違う表現を見ることができた。ラストの“La Bohemia”は、先述の日本独自企画盤『Cloud 10 – The Complete Sessions』に収録された、プレミアムなナンバー。軽快にウォークするベース、スマートで知的なトランペット、音の創造できる限界に挑戦するくらいの勢いで弾かれるビブラフォンソロなど、踊れて見どころもたくさんだった。
紳士的で、上品な音使いで、でもちょっぴりおちゃめなイケおじのみなさま。彼らとモダン・ジャズを楽しむことができるのは、なんて贅沢な時間なんだろうと思った。
[写真:全10枚]