LIVE REPORT - FIELD OF HEAVEN 7/26 FRI
家主
もし今、真っ直ぐにロックと言える音楽があるならば
田中ヤコブ(Vo,Gt)以外の3人だと会社員バンドのように見えるし、音楽のプロとして食っていくという野望より、誰にも言わないが演奏は凄まじく、曲にも自信がある。ロックを定義するのが難しい時代にあっても、その音楽を聴けば「ロック」としか言いようがない。しかし本人たちは「ロックをできていたらいいなと思う」という、冷静なスタンスを持つ。めちゃくちゃいいバランス感覚なのだ。とびきりデカい音で鳴らされるあのトレブリーなギターやロックンロールの髄で満ちている曲はもちろん、彼らのフラットなバランス感覚が家主を「観てみたい」バンドにしてるんだと思う。
開演時間ギリギリまで綿密なサウンドチェックを行った4人の元に続々集まってくるオーディエンス。一旦袖に下がってステージに現れたヤコブは「盛り上がってる風に見せとかないと親に顔が立たない」と、コンセントレーションを高めるために観たというコレクターズの”世界を止めて”を一節歌う。あれ?思ったより抜け目ないぞ。と、爆音を撒き散らす“陽気者”でライブはスタート。アンガス・ヤングばりに頭を振り足踏みしながらトレブリーなリフをかます。平熱な歌と凶暴なギターサウンド、そしてアンサンブル。このギャップがたまらない。盛り上がるオーディエンスに煽られて、田中悠平(Vo,Ba)が首にかけていたタオルはいつの間にか吹っ飛んでいた。その田中が歌う“カメラ”は彼以外の3人がつけるコーラスにロックンロールバンド不変の無敵感にニンマリしてしまった。
これだけ激しい演奏をしていると、流石にチューニングタイムは長い。と、その時、ヤコブがモニタースピーカーにとまったトンボの写真を撮りたいと、スマホのカメラを向けた。苗場らしい光景に「今日は5人目のメンバーもいますんで」と、ステージを120%楽しんでいる。
音源よりライブではビートルズ的な印象よりハードロックな“きかいにおまかせ”は流石に人気ナンバーで、サビでは多くの手が挙がる。人間がやらなくても機械がやればいいことを無駄に争っている、そんな納得感と同時に、例えばAIに追いやられてしまう人間の立場なんかもさらっと忍ばせる歌詞の腹落ち度合いったらない。それを人力の極みのような演奏で歌うからまた沁みる。
中盤にはヤコブが体育会系パリピの近隣住民に悩まされていることを告白し、暴力ではなく音楽で制裁を与えようと演奏したのが重くソリッドな“Dreamy”。顔に触れる帽子のふちが重低音で震えている。それぐらいラウドな演奏にも関わらず、彼らの挙動に笑ってしまう。とんでもないものを観たり聴いたりすると人間笑ってしまうものだが、家主のライブには加えて、ちょっと困ってしまう日常のユーモアがある。爆音の奥田民生かといったコード感やメロディの“p.u.n.k”や”NFP“で、連綿と続くビートルズやハードロックの血脈を感じつつ、一時間の持ち時間にぎゅうぎゅうに詰め込んだ15曲を駆けて行ったのだった。今年のフジロック、生身のロックバンドに見どころが多い気がしてきたぞ。
[写真:全10枚]