LIVE REPORT - FIELD OF HEAVEN 7/27 SUN
GRACE BOWERS & THE HODGE PODGE
飛翔の起点
今年のフジロックは本当にギタリストの当たり年だ。パーラー・グリーンズのジミー・ジェイムス、マヤ・デレイラ、メイ・シモネス、マーシン、コリー・ウォン、MIYAVI、ロバート・ランドルフ、そしてグレース・バウワーズ。これから、ここフィールド・オブ・ヘブンに登場するグレース・バウワーズは、ギターの卓越した腕前で世界中の耳目を集める19歳のギタリスト・ソングライターだ。昨年11月にBlue Note Tokyoに初来日している彼女が、初となるフジロックで早くも再来日を果たす。
フジロック最終日も15時を過ぎた。陽はまだまだ高く暑い。開演時間定刻にバンドメンバー5名からステージに姿を見せ、続いてグレース・バウワーズが登場。衣装は夏っぽいノースリーブの白いドレス。裾が波打ったデザインがキュートだ。ふわふわのカーリーブロンドヘアが風になびいている。ギブソンSGでアーム奏法を繰り出し、うねりを上げながらクール&ザ・ギャングの“Hollywood Swinging”から開演。ファンキーなカッティングもお手のものだ。のっけから出し惜しみのないギターソロでグルーヴを創り上げていく。年長者のバンドがグレースを支え、グレースが自由にギターを弾くのだろうと思いきや、その逆だった。バンドの音をよく聴き、目で合図を送り、時にはメンバーの傍まで寄っていく。ステージを牽引しているのがグレースなのだと冒頭から把握できた。
お次は新曲だろうか。T・レックスのような重たいリフ主体のハードロッキンブギーな進行がかっこいい。ここではグレースがリードボーカルを取る。ギターの神童っぷりに比べ、ザ・ランナウェイズのシェリー・カーリーを思わせるグレースの歌声は、まだ成長中の19歳であることが感じられた。途中ブラック・サバスのようなリフが飛び出したり、間奏部ではハードロック然とした速弾きを繰り出す。最初のギターヒーローがスラッシュで、初めて独学で弾けるようになったのがAC/DCの“TNT”だという彼女のストレートな影響源から来る初期衝動を感じさせるような展開だった。
「フジロック!気分はどう?」と集まったオーディエンスに挨拶。「前のブルーノートも良かったけど、あなたたちの方がいいクラウドよ」なんてとお世辞を言いながら新曲“Furure Trip”を披露。ミドルテンポのヴィンテージ感あるロック。グレースの最大のインスピレーションの一人だというレスリー・ウェストのような土臭さを感じさせる楽曲だった。
ジョシュア・ブレイロックによるキーボードソロからはじまった“Get On Now”。キーボードの出音割れていて気になる。その後、途中で左側スピーカーの音が途切れたので、この時点で音響トラブルに見舞われていたようだ。そんなことはグレースもバンドも気に留めず演奏を続ける。デカール・ベイカーがドカドカと巧みなドラムソロを繰り出し、ショシュアによるキーボードとグレースのギターの掛け合いで仕立てられたファンキーなグルーヴを生み出す。発生したトラブルを問答無用で覆してしまうようなたくましさが感じられた。
「お願いがあるの。あそこの人(ベースのジャラヴェン・ヒル)が見える?彼が今日誕生日なの。なのでハッピーバースデーソングを歌って祝ってくれる?」と言うのでオーディエンスが歌いはじめると「違う!本当に歌ってよ」と止めると、ジャラヴェンが慌てて「グレースの誕生日は2日前だった。だから両人を祝ってくれ!」とフォロー。次の誕生日に関する曲に繋ぎたかったのだと思うが、柔軟にオーディエンスと一緒にステージを創るという点においてはグレースの未熟さを感じざるを得なかった。
その後もギターの可能性を探求し表現するグレースの天才っぷりを遺憾なく発揮。激しくかき鳴らし弾き倒すスタイルからゆったりと暖かいフレーズを届けるスタイルまで緩急をつけつつステージを進行していく。最後はファンカデリックの“Red Hot Mama”で敬愛するエディ・ヘイゼルよろしくドライヴ感満載のギターで締めくくり。大歓声が沸くクラウドをグレース自ら写真に収め、にこやかにステージを後にした。
新曲がたくさん披露されたセットリスト。1stアルバムはスライ・アンド・ザ・ファミリー・ストーンの“Dance To The Music”を含むファンク主体の内容だったが、本セットでは新作からのロックなヴァイブスが加味され、多彩な構成だった。音響やオーディエンスとのコミュニケーションなどの課題は残ったものの、リーダーたる立ち位置を十分に示した本ステージ。グレースの輝かしいこれからの起点となる予感がしてならない。
[写真:全10枚]