LIVE REPORT - NAEBA SHOKUDO 7/25 FRI
のろしレコードと悪魔のいけにえ
活動10年にしてフジロック初登場の歓喜
活動歴10年にして初めてフジロックに出演とあって、サウンドチェックから皆さん非常ににこやかである。普段はおのおのシンガーソングライターとして活動している折坂悠太、松井文、夜久一がオリジナルやカバーを演奏するユニットであり、同時に「のろしレコード」は彼らのレーベル名でもある。つい最近、ライブのアナログレコードがリリースされたばかりだそうだ。
改めてメンバーは折坂悠太(Vo/マンドリン) 松井文Vo/Gt/バンジョー) 夜久一(Vo/Gt)。バンド形態の際は2018年冬からハラナツコ(Sax/アコーディオン)、宮坂洋生(コントラバス)、あだち麗三郎(Dr)がサポートを務める。
バンジョーとマンドリンの響きが自然とカントリー/フォークの味わいを醸し、涼しくなった時間帯をさらに過ごしやすくする。が、3人が順番に歌い始めるとそれは胸がすくような痛快さに変わっていく。1曲目は金森幸介の“Rock’n Roll Gypsy part2”。続いては定住しないサーカス一家を歌ったオリジナル曲と続く。どこか根無し草な生活者の目線がカバーでもオリジナルでも共通しているようだ。ジャンルではないところでブルースを感じるのはそのせいだろう。
ただ、3人は底抜けにこのステージが楽しいようで、自己紹介の声もデカい。特に折坂がステージでこんなに破顔を見せるのは珍しい。ひとりでフロントに立つのとはもちろん違うだろうし、“のろしレコード”の一味という印象も楽しい。
人間の暮らしの根本のシンプルなところにフォーカスした、人種問わず伝承されてきた歌のような内容が多い彼らの作品。そうした曲が続いた後、“コールドスリープ”とタイトルされた曲のロマンチックなのか悲しいのか判然としない歌に揺さぶられた。いや、冷凍保存されてもふたりで好きな星に移住したいというのだからロマンチックなのか。3人とも歌が持っている情景に変に色をつけることなくまっすぐ歌っているように感じて、そのことがさらにストーリーを際立たせていた。
最後はのろしレコードの由来が綴られている“のろし”。「あのデカいビルのガラスを割って君に見つけてもらおう。あのデカいビルからのろしを上げて君に来てもらおう」という意味合いの歌詞がまるでパンクじゃないかと痛快な気持ちになってしまった。おのおの自分名義では少し複雑に自分自身を落とし込まざるを得ない作家性を持っているはずで、このユニットだから歌える素朴さとそれゆえの強さが印象に残った。のろしとは声なんだろうな。私たちもそれぞれの場所からのろしを上げよう。
[写真:全10枚]