LIVE REPORT - GREEN STAGE 7/25 SAT
KHRUANGBIN
月とともに踊る夜
フジロック二日目も、いよいよクライマックス。心地よい夜風が吹き抜けるグリーンステージに、この日のヘッドライナー、KHRUANGBINが姿を現す。2019年以来、7年ぶりの苗場帰還だ。
その直前まで、この場所は藤井風が歌声でひとつにした空間だった。今度は言葉ではなく、グルーヴだけでオーディエンスを包み込む時間がはじまろうとしている。左右のスクリーンには富士山のイラストと「全てが君に微笑む」のメッセージ。二日目のフィナーレを祝福するような言葉だ。開演5分前、Joe Sampleの‟Viva De Funk”が大きく流れはじめると、ステージ前方はみるみる人で埋まり、期待感が高まっていく。ステージにはスモークがゆっくりと立ち込め、SEのFree Radicals ‟Trainyard Ska”がフェードアウト。暗転とともに、グリーンステージが静寂に包まれた。
闇の中に虫の声が響く。スクリーンには赤く染まった富士山が浮かび上がり、メンバーが静かに定位置へ。その赤はやがて満月へと姿を変え、Mark Speer(マーク)の極上のギターフレーズがゆっくりと漂い始める。幕開けは”A Calf Born in Winter”。
Laura Lee(ローラ)の鮮やかな赤いドレスが闇に映える。彼女のミニマルなベースとDonald “DJ” Johnson(ドナルド)の無駄を削ぎ落としたビート。その上をマークのギターが自由に泳いでいく。さらに今回は、ペダルスティールやキーボード、パーカッションを操るカウボーイハット姿のサポートメンバーも参加。ドナルドまでカウボーイハットをかぶり、ステージには彼らの故郷・テキサス州ヒューストンの空気が、そのまま運び込まれたかのようだった。
続く”May Ninth”ではローラとマークがささやくようなコーラスを重ねる。豪雨で始まり、灼けるような暑さへと一変した苗場の一日。そのすべてを優しく癒やしてくれるようなアンサンブルだ。ローラのダビーなベースが鳴り響くと、マークの深いリヴァーブが会場全体を包み込む。「Fuji Rock! もっともマジカルなフェスティバルにみなさんと一緒で光栄です。(It’s an honor to be with you at the most magical festival.)」そう挨拶して始まった”August 10″。ペダルスティールの柔らかな響きが重なり、紫色に染まるスモークの中で幻想的な世界を描き出していく。音数はミニマルにして圧倒的な密度がそこにあった。
“Dern Kala II”では軽快なメロディに合わせ、フロアから自然とシンガロングが巻き起こる。インストバンドなのに、観客が自らメロディを歌う。昨年のVulfpeckを思い出させるほど幸福な光景。照明はまるで深い霧の中にいるようだ。ふと気づけば、背後の満月が少しずつ欠けはじめている。ラストは、マークとサポートによるツインギターが一気に熱量を引き上げ、その緻密なアンサンブルに息をのむ。
“Juegos y Nubes”では、柔らかなフレーズから一転、切り裂くようなハードなギターリフが飛び出す。その後もジャジーな展開を行き来し、ローラとマークのウィスパーボイスがヴィンテージR&Bの色気をまとわせる。ピタリと演奏を止め、再びグルーヴへ雪崩れ込む構成もお見事だ。
続く”Pon Pón”はどこか哀愁を帯びながらも、身体は自然とリズムに揺れてしまう。スクリーンの月はさらに欠け、有明月ほどの姿になっていた。深いブルーに染まる”Balls and Pins II”では、オーディエンスが作ったであろうシャボン玉がフロアから舞い上がり、幻想的な空間をさらに彩る。濃密なトーンで情感たっぷりに弾き倒すマークは、まさにロックスターの風格。静かな楽曲の中で、一際鋭い輝きを放っていた。
“White Gloves II”ではLauraが真っ直ぐに歌を届ける。軽快なパーカッションとマークの幻想的なリヴァーブが絶妙に絡み合い、隠れていた月も再びゆっくりと姿を現しはじめた。続く”So We Won’t Forget”ではローラのベースがメロディを奏で、その上をマークのギターが自由に舞う。二人はステージ左右へ移動し、ときに向かい合って演奏を交わす。ジャズのような即興ではない。繰り返しを少しずつ変化させ、気づけばグルーヴの深みへ引き込まれている。空を見上げれば、もうじき満月と思われる本物の月が静かに浮かんでいた。まさに今、我々は月とともに踊っている。
紫と赤の光がスモークを染める”Two Fish and an Elephant II”では、本セット一番の速弾きをマークが披露。そしてスクリーンの月が真っ赤に染まった瞬間、Kool & The Gangの”Summer Madness”のイントロが残響音たっぷり鳴り響き、赤と青の照明がフロアを照らす。このゆったりとした夏のグルーヴに身を委ねない理由などどこにもない。ピンク色の照明へ切り替わると、アフガニスタン民謡風のフレーズが印象的な”María También”へ。バンドが繰り出す、シンプルだが密度の濃いファンクが、集ったオーディエンスの腰を直撃するのだ。
続く、YMOの演奏で知られる”Firecracker”では、イエローのスポットライトが乱れ飛ぶ。ディレイの効いたMarkのギターが鋭く空間を切り裂き、オーディエンスはダンスフロアの渦へ飲み込まれていく。”People Everywhere (Still Alive) II”が始まると自然発生的にハンドクラップが起こり、ローラはベースを抱えたままステージを降りて観客のすぐ目の前へ。会場全体がKHRUANGBINのグルーヴに包まれ、誰もが笑顔で身体を揺らす。言葉はなくとも、フルーヴだけで人はひとつになれることを証明するような時間だった。
最後にマークが日本語で語りかける。「月が綺麗だね。また会いましょう。ありがとうございます。」そして、Princeの超名曲‟Purple Rain”を思わせる余韻たっぷりのギターフレーズを響かせながら、バンドが静かにステージを去っていった。歌ではなくグルーヴで、言葉ではなく音色で、人と人を結びつけた90分。KHRUANGBINは極上のアンサンブルでグリーンステージ一帯を満たし、フジロック二日目はこの上なく美しいフィナーレを迎えた。
[写真:全10枚]









