グリーンに現れた大人の余裕と貫禄
青いライトがゆっくりとグリーンステージを照らしている。寄り添うように重ねられている静かなインプロビゼーションは幻想的で冷ややかなながらどこか暖かい包容力を感じさせる雰囲気で、まるで海底にいるような印象を与えてくれる。そして、スクリーンに丁寧にメンバーが映し出された。坂本龍一、高橋幸宏、細野晴臣。年齢を重ねた表情をまじまじと眺めつつ、YMOがフジロックに来てくれたことを噛み締めたのだろう。客席から感嘆ともためいきとも取れる声が聞こえて来た。
1曲めは”Firecracker”、続いて”Behind The Mask”、”Riot in Lagos”、”The City of Light”。YMOはこの夏既に2カ所でライブを行っているが、ほぼ同じ曲順である。サポートメンバーには小山田圭吾、権藤知彦、クリスチャン・フェネス。ほとんど何もないと言ってもよいステージに機材と6人がいるだけなのだがなんという存在感だろう。クールに研ぎすまされたアレンジと確かすぎる演奏力によって、グリーンステージと苗場の山々がYMOの音に洗われていくように感じられる。
続いて”京城音楽 SEOUL MUSIC”。スクリーンにサイケデリックな彩色がほどこされ、一転して華やかな印象になった。おそらくリアルタイムで行われているVJとライティングの凝っているのだが抑えた演出は、大人の余裕が感じられてにくいほどだ。さらに”灰色(グレイ)の段階 GRADATED GREY”、”体操 TAISO”とアルバム『テクノデリック』からの曲が並ぶ。おそらくなのだが、”灰色(グレイ)の段階 GRADATED GREY”がライブで披露されたのは比較的珍しいのではないか。この夏のアクトでは3回とも演奏しているので、次回のワールドハピネスでも聞ける可能性が高いと思う。”体操”では筆者ははりきってkeirenの運動をやったのだが周りは誰もやっておらず、やや残念。ダンサーが登場することもなくあくまでストイックに演奏が続いて行く。
“1000 KNIVES 千のナイフ”、”Cosmic Surfin’”と演奏したあと舞台が暗転し、”RYDEEN”がはじまった。テクノやエレクトロニカを指向しながら「あえて」人力で演奏するバンドは最近では珍しくないが、考えてみればYMOはその先駆者といってよい存在だ。当時はそれより他に術がなかったのだが、時代が一周して追いついたというべきか、打ち込み/生演奏といった区分がばかばかしくなる程洗練されたシャープなアンサンブルはただただ見る者を圧倒する。そこに権藤知彦と小山田圭吾のホーンやギターが若さと生っぽさを加えていて、昔のようにハードでもなく、しかしメンバーの他の活動とも違う、現在のYMOのサウンドが構築されているように感じられる。
タイトなリズムに浮遊感があるメロディで一気に加速したステージはこんなに豪華な選曲でよいのかと思う間もなく進行し、”Cue”に続いて演奏された”東風”が最後のナンバーであった。演奏終了後は6人がステージ前方に移動し、肩を組んでおじぎをしてくれた。まだまだ聞き足りない、もっとYMOの世界に浸っていたいという余韻を残し、グリーンステージでの演奏の幕が降りたのである。
写真:前田博史
文:永田夏来