奥田民生
自由気ままな、そのブレない姿に惚れ惚れ
フィールド・オブ・ヘブンのトリ。奥田民生である。ここ大事なことだし、かつ嬉しさでいっぱいな分、2回言わせてもらう。そう、1日目のフィールド・オブ・ヘブンのトリは奥田民生である。一昨年、13年ぶりにフジロックに戻ってきてくれたのがまだ記憶に新しいが(出演自体は4度目)、その時はあいにくの土砂降り。しかも、まさかの雷も鳴り響くという天候だったのをよく覚えている。さて、今回はどうだろう。早朝は雨も降っていたけれど、昼間以降は曇りで、雨もほとんど降らず。奥田民生のライヴ時には、とても穏やかな気候、かつ過ごしやすい気温でのスタートとなった。
登場するやいなや、ステージ中央へと移動。イス、ギター4〜5本、ドリンクなどが置かれた机のみの、1人切りの体制である。そして、自身でSEを鳴らして、上手、下手と、手を降りながら観客に挨拶し、ひとまずイスに腰掛ける。演奏の前にドリンクを手にして飲み、またタオルで口をふき、自らSEをフェード・アウト。のっけからのんびりマイ・ペースで、その様子を見ていると、ついつい笑みが零れてしまった。
「民生—!」という声と拍手が響く中、「ちょっと長いですけど、よろしくお願いします」と話し、1曲目として春にユニコーンとしてリリースした“私はオジさんになった”へ。途中「間違えた」などという言葉を挟みつつ進行され、まるで自宅で演奏しているようなゆったりムードである。時には、「するわけない」という詞の部分を観客にリピートしてもらいながら、奥田民生が歌を進めていく、なんてことも。「早くも一体感が…」と少々笑いながら話していたが、いや、もうここで彼の雰囲気に随分と惹き付けられてしまっていた。
そして、2曲目の“雪が降る町”を歌ったところで、MC。「どうも、どうも。奥田民生です、はい。えー、22時30分くらいまでやる予定です。この2曲だけ決めてきたんですよ、どうしましょうね。お客さんの反応を見て決めようと思ってきたんですけど、わりと中途半端な…(笑)」と。すると、観客から「“カヌー”」など、次々に楽曲の名前が上がっていく。それに反応し、すぐさま「違う、違う、リクエストしているわけじゃない(笑)。自分のソロの曲をね、わりと忘れていましてね。思えばやっていないんですよ、あんまり。曲ができちゃう方なんです、似たような曲ばかり。忘れちゃうんですよね」と返す。そこから次の曲にいくかと思えば、「あれ、これ何ていう曲…?」と曲名が覚え出せない様子の奥田民生。「早く歌ってー!」との観客の声が上がり始めると、なかなか思い出せなかった中、「“花になる”という曲だ!」とようやく演奏へ。どこからともなく手拍子が響き、また、次々にそこにいる観客たちはメロディを口ずさんでいく。あぁ、もう幸せです、という声が漏れ出てしまわんばかりに、その場にいられること自体に充実感を感じられる。
その後、“The STANDARD”を演奏し、再びMCへ。前回フジロックに出演した際の天気のことにも触れながら、「俺ぐらいにもなると、ギターもね、弦2本くらいで弾ける。試しにやってみようか」と“ちょっとにがい”へ。少々失敗しながらステージで笑う彼を前に、その場にいる観客それぞれも、腹の底から「アハハ」と大きく声を上げていく。この距離の近さ、たまらなく良い! 次いで、奥田民生、岸田 繁(くるり)、伊藤大地からなるサンフジンズの“ハリがないと”、ソロの曲である“コーヒー”が終わると、またも自らポチッとBGMを鳴らし、「3分休憩」と、一旦ステージ外へ。こういう気ままな感じが、また彼らしい。しかも、次に登場した時、そのBGMの音楽も自身でフェード・アウトするあたり、愛らしいというかなんというか。
「さあ、まだまだ時間ありますけど」とのかけ声の後は、「人の曲をワン・コーラスずつやっていこうか」と斬新なアイデアで、スピッツの“スパイダー”、真心ブラザーズの“人間はもう終わりだ!”、オリジナル・ラブの“接吻”へ。途中、モノマネ的な歌い方もしながら…というのが少々チャーミングではありながら、ワン・コーラス以上やってほしい!と心の中で熱望してしまったのが本音である(単純にもっと聴きたくなってしまった)。曲が進むにつれて強く思うけれど、何だろうか、やはり、どうもここフィールド・オブ・ヘブンが広い会場というよりも、もっと、こじんまりしたところで聴いているような気分になってくる。奥田民生との距離も近ければ、横にいる観客との距離も近いし、冒頭で「一体感…(笑)」と自身は言っていたが、これこそ、一体感があるからこそ感じる気持ち良さである。
終盤に演奏されたユニコーンの“早口カレー”も、ソロ曲の“マシマロ”や“さすらい”などを演奏した後もそうなのだけど、楽曲の演奏が終わる度に必ずと言っていいほど「民生—!」との声が。だから、1曲終えるごとにビシバシと民生愛も感じられ、どれだけ深く愛されているのか?を実感すると同時に、ミュージシャンとしての底力を目の当たりにするようだった(ステージにいる本人はあくまでマイ・ペースではあるけれど)。また、終演予定時刻の22時30分ピッタリ終わったものの、すぐにアンコールを呼ぶ手拍子が響き出していく。その手拍子に応え、再び姿を見せた奥田民生は11月28日に〈マツダスタジアム〉にておこなわれるスペシャル・ライヴ『奥田民生ひとり股旅スペシャル』の告知をし(ちなみに、10月より全国ホール・ツアー『奥田民生2015全国ツアー秋コレ』の開催も決定している)、アンコール曲として“風は西から”から“イージュー★ライダー”を。「みんな歌ってくださいね。まぁ、俺のが上手いのは分かっていますけど。はい、どうぞー!」との声に、ここはもう大合唱! とてつもなく多幸感ある大合唱に包まれ、最後の最後まで自然と、そして、心の底から笑顔にさせられるライヴだった。終わった後、「惚れるわ、民生」と観客の声がどこからともなく聴こえてきたが、まさにである。こっそりと、うん、本当にそうだよね、と頷いてしまうくらいの、ステージっぷりだったのは言うまでもない。