日食なつこ
躍動感のあるサウンドとともに響く、特異な視点ある歌
岩手県出身の日食なつこは、東京に拠点を移してからまだ間もない(元々、東京でも活動をしていたけれど、最近東京に引っ越したばかり)、ピアノ弾き語りのソロ・アーティストである。この日は、ドラマーであるkomaki(wrong city)を迎えての、ピアノとドラム形式でジプシー・アバロンに登場した。
黒のワンピースとシックな衣装を纏った日食がピアノの前に、また、ピアノと向い合わせになったドラムの前にkomakiが座る。すると、すぐさま躍動感のあるサウンドと、少々トゲのある歌が会場全体にビシッと張り詰るようにして鳴り響き出していく。これは、9月にリリースするシングルからの“ヒーロー失踪”という曲だという。他の楽曲にも言えることだけど、24歳の日食の歌は真っ直ぐぶつかってくる感触はありながら、そこにはユーモアさだったり、皮肉さだったりも含まれていて、決して一筋縄ではいかない。この曲も、本物のヒーローと救いということに対して問うような楽曲で、なまぬるさは一切ない、と思えてならなかった。
次いで“ビッグバード”を演奏した後は、「みんな足元ドロンコだけど、楽しめます?」と声を掛け、“竜巻のおどる日”へ。ジプシー・アバロンの照明と相まって、彼女の凛然としたその姿に拍車がかかり、気付けば、かじりつくように見とれてしまっていた。日々の中で感じた違和感に、自分なりに答えを出そうとする日食の歌。ある意味、不器用とも言えるのかもしれないけれど、それがとても魅力的だし、カッコいいな、と率直に思う。また、特異な視点を盛り込んだ、振り切った極端さが日食ならではで良いのだ。
「スーパー・ドラマー」という日食によるkomakiの紹介の後は、komakiによるMC。「昼ぐらいに着いたけれど、食べるは飲むは歩くは…僕らが1番疲れているかも(笑)」と。だけど、そう言いながら、実際には初っぱなから2人ともエネルギーたっぷりで、エモーショナル感があり、その温度感に聴いている側はドキドキさせられっぱなしである。しかも、ここ最近、2人でのライヴを重ねてきただけに、培ってきたものが表れているのだろう、コミュニケーションがしっかり取れていて、息ピッタリである。後半には、“ヒューマン”や“Fly-by”を。そして、“水流のロック”では、観客の手拍子があったり、ワッと声が沸き上がる感じがあったり、いつものライヴ・ハウスで観るライヴとはまたひと味違う。じっとしていない観客ばかりで、それを受けて、さらに日食もkomakiもヒート・アップ。また、どんどん彼らの熱量が上がることで、2人の音と音がいい具合にギリギリの限界までせめぎあうのを体感できたのも、とても嬉しいところだった。
最後に“黒い天球儀”で演奏を締めくくった後は、日食とkomakiが喜びを表に出しながら、軽快にハイタッチ。そして、ステージのセンターにて、観客に向かってしっかり一礼を。颯爽とした日食の姿がいつまでも脳裏に残るようだった。ライヴ後は、「初めて観たけど、すごく良かった」という声も多数。この後も、日食節がどんどん広がっていくことに大いに期待したい。