never young beach
昭和感のあるにおいを感じながら
21時30分、苗場食堂にてnever young beachを待つ。まだ開始まで15分近くあるのに、すでに彼らの評判を聞きつけたのか、観客のザワザワ感があたりに立ち込めていた(実際、CDをリリースした時も、バンド自体はライヴもしていない中、口コミだけで話題になったそうだ)。すると、ヴォーカル&ギターの安部勇磨の「フワァー!」という、ある種、雄叫びのような一声が。それをきっかけに、ギターの阿南智史、ギターの松島 皓 、ベースの巽啓伍、ドラムの鈴木健人が登場。「never young beachです。よろしくお願いします」と、“ちょっと待ってよ”などじとっとした暑さのある、この季節にピッタリの夏感あるサウンドと歌が次々と鳴らされていく。このゆらゆらとした浮遊感をつたって、ちょっとした幸福感のようなものまで染み込んでくるのが嬉しい。
「色々とラインナップがあるのは知っているけど、適当に音楽に身を委ねて楽しんでくれ! イエーイ!」という安部。良い具合に力が抜けた演奏時とはまた違って、MCになると、シャウト的な叫び声も織り交ぜる分、そのテンションの高さに少々ビックリしてしまう。とはいえ、このギャップがまた良いのだけれど。中盤には“あまり行かない喫茶店で”を。彼らの楽曲の場合、踊れる要素がたくさんありながら、押し付けがましくなく入ってくる手触りがある。それに、観客もそうだが、メンバー自身が本当に1番楽しそうだし、自分を奮い立たせるように歌ったり、演奏する姿が純粋でとてつもなく魅力的だ。トリプル・ギターという緻密ながら軽やかなアンサンブルに、そこまで難しいことは考えずとも風景が浮かぶ歌に、ただ身を寄せる時間が続く。
そして、楽曲が進みにつれ、メンバーがよく笑い、それにつられてまた観客が笑みを零していく、という連鎖感も。気付ば、苗場食堂のステージ下手に併設された桟敷にて、食事をしながらゆっくり観ていたであろう人たちも、立ち上がって、ピョンピョン跳ねているという光景が。彼らの楽曲って、詞に関していえば、なんらへんてつもないささやかな日常が描かれている。だけど、どこか懐かしさも含んだサウンドに乗って聴くと、視点次第で面白く見えたりもすると思えるというか、そういう気にさせられてしまうのだ。ネガティヴ要素は一切なし。いやはや、こんなにもフワフワした気分なれるとは。大収穫である。
「ありがとー! 星野 源さんがルーキー・ア・ゴーゴーに出た後、ここに出て、また何年か経ってあっち(グリーン・ステージ)って聞いて。すごいいい話だなと思ったから。そういうこと! バイバイ、never young beachでした。最後まで楽しんで」。そう、ちょっと照れくさそうに話す安倍のMCの後、“どうでもいいけど”へ。いつかグリーン・ステージで聴ける時があれば、きっと、それはそれでゆる〜い幸せ感が充満しそうだなぁ…なんてイメージしながら彼らを観ていると、気持ちがまた満ち足りていく。あぁ、もう完璧、この音楽に心をギュッと掴まれてしまったようだ。ラストの曲では、前の方にいる人たちも、後ろにいた人たちも、めいっぱい手をあげて、その歌にこれでもかと酔いしれていく。その場にいる人たちみんな、本当に良い表情で終始いたのがとても印象的だった。
また、最後には、まさかのアンコールを求める声が。といっても、苗場食堂のステージは次も控えているし、ないだろう…と思っていたところ、鳴り止まない歓声を受けてか、「みんなありがとう、めちゃ嬉しい! ありがとう」と再度メンバーが姿を見せる。そして、「みんなどうフジロック、いい感じだよね、雨降らないし、最高—!」という会話の後、「カヴァーを1曲やります」と“恋は桃色”を演奏。はっぴいえんどはじめ、70年代のJ-POPにしっかり影響を受けている彼ら。オリジナル曲に昭和感のあるにおいや哀愁などが漂うわけは、そのルーツが垣間みられていたということなんだな、と改めて実感が湧く。そうやって、最後の最後まで、独特の魅力をたっぷりと詰め込んだ時間を共有してくれた。今はこの感触は当分消えそうにないな、と感じているところである。