LIVE REPORTGREEN STAGE7/28 SUN
JASON MRAZ
グリーンステージを満たした自然と人間への愛と幸福感
最終日、夕暮れどきのグリーンステージには、ジェイソン・ムラーズが作り出した、なんとも愛と幸福感に満ち溢れた空間が広がっていた。
ポジティヴなメッセージとソウルフルなフォーク・ポップ・サウンドで世界中のオーディエンスを魅了、これまでグラミー賞を複数受賞してきたシンガーソングライターのジェイソン・ムラーズ。ステージ中央に大きく掲げられた「グッド・ヴァイブス」の文字を背負って、バンドメンバーに続いてジェイソンが登場すると、さっきまで止んでいた雨がしとしとと降り始めた。
ジェイソンが「一緒に深呼吸しよう!」と提案して、みんなで二回深呼吸。「思い出して。なんでここにきたのかを。山の空気…、自然を感じよう」と、その声に合わせて感覚を研ぎ澄ませてみる。苗場の澄んだ空気の中、芝の茂る大地の上に立ち、しとしとと降る雨に打たれている自分がいる。そうしてジェイソンが歌い始めたのは“レッツ・シー・ホワット・ザ・ナイト・キャン・ドゥ”。オーガニックなサウンドに、やさしい歌声がグリーンステージに響き渡る。自然との繋がりを感じながら、今、ここでジェイソンの音楽を聴くことができるという喜びを噛み締めた。正直、始まる前までは「やっぱり晴れた空の下で聴きたいな」と思っていた自分だったが、「どんな天気でも心には太陽が出るよ」という言葉にありのままの自然を受け入れて楽しもうと思い直した。
アーティストであると同時に農園を営んでいる彼は、何よりも世界の民であることに身を捧げ、自然や人間への愛や感謝を歌う。「僕のことを頼っていいんだよ」「どこに行こうとも君はいつでも家に帰ってこられるんだ」などといった歌詞にはもちろん、「みんな自分の身体に触ってみて。この身体は神の祝福なんだよ」など、発する言葉の端々にもその思いは宿っている。それでいて「マイクはどこー?」などとミュージカルのように歌いながらMCをしたり、ふと舌を出しておどけて見せたりと、茶目っ気も存分に見せてくれたジェイソン。心がぐっと鷲掴みにされてしまった。
今回は、共同で楽曲制作するなど長年交流のあるレイニング・ジェーン(モナ・タヴァコリ、チャスカ・ポッター、マイ・ブルームフィールド、ベッキー・ゲブハート)とステージを共有。ジェイソンとレイニング・ジェーンの4人が同じ動きをしたコミカルなダンスをすれば、思わず笑顔になってしまう。“アンロンリー”では、冒頭にジャクソン5の“アイ・ウォント・ユー・バック”フレーズを流し、間奏では5人でジャクソン5を彷彿とさせるダンスを披露。みんなで力を合わせてTシャツをパチンコ(ゴム銃)で客席に発射したりとどこまでも楽しませてくれる。レイニング・ジェーンは全員がマルチミュージシャンで、メンバーたちが曲によって様々な楽器を演奏してジェイソンとの掛け合いを披露。チャスカ・ポッターはジェイソンと“ラッキー”をしっとりと歌い上げ、“93ミリオンマイルズ”では、アコースティックと4人の優しいコーラスが会場を包みこんだ。
ギター、パーカッション、コーラス、チェロ、ベース、ドラム、キーボードという編成で、そのオーガニックなサウンドを支えていた。ステージ上のメンバーは全員お揃いの衣装で、バンドメンバーはそれぞれ黄、青、水色、緑、黒、黄緑、白の、そしてジェイソンは黒地にカラフルな色の入ったつなぎを着用。まるで「バンドメンバーがいてこそ自分がある」とでもいうようで、ジェイソンとバンドメンバーとの強い繋がりを感じる。
ジェイソン最大のヒット曲である“ユアーズ”では、会場からのシンガロングがこだました。周りを見渡してみれば、グリーンステージを満たすたくさんの人たち、その誰もが笑顔を浮かべていた。会場にいるたくさんの人たちとこの空間を共有できたことを心から嬉しく思う。
「どんな夢を持っていても、その夢を持ち続けていて。“オール・ユー・キャン・ハヴ”だから」と、“ハヴ・イット・オール”で締めくくる。“ハヴ・イット・オール”は、ジェイソンがミャンマーへの旅の最中に仏教僧にかけてもらった祈りの言葉から着想を得た楽曲だという。ラップソングの形をとって祈りの言葉が降り注ぎ、身体と心にじわじわとしみ込んでいく。ああ、なんて温かい気持ちに満たされたステージなんだろう。メンバーたちがステージを後にした後も、その余韻はグリーンステージを満たしていた。
[写真:全10枚]