LIVE REPORTWHITE STAGE7/28 SUN
JAMES BLAKE
他者を受け入れることによって差し込んだ光
人間とは長い人生において、あらゆる経験をして成長する生き物である──。
昨年30歳を迎えたジェイムス・ブレイクは20代の間にあらゆる辛い体験をしてきた。失恋、睡眠障害、うつ…そして孤独。しかし、彼はそれらを乗り越え確実な成長を遂げてきた。そのことはこれまでに彼がリリースしてきたアルバムを聴けば一目瞭然だ。特に新作『Assume Form』は“他者を受け入れる”ことにより完成した、彼にとって新しい試みが詰まったアルバムである。このアルバムは「愛」について歌われていて、それまで内省的だった歌詞やサウンドらと比べ、明らかに温かく穏やかで開放的なアルバムになっている。その要因となったのは、制作を共に進めたマウント・キンビーのドミニク・メイカーをはじめ、アメリカのラッパー、トラヴィス・スコットや、アメリカのシンガー・ソングライター、モーゼス・サムニーらコラボレーターたちの存在があったことが大きい。ジェイムスは彼ら他者を受け入れることによって、自らに開けた心とフィーリングをもたらした。このアルバムでの成長がどうライブに反映されるのか?この日のステージに対する興味はそこに尽きた。
ライブ1曲めの新曲“Assume Form”はそんな今の彼のステータスを歌っている曲だ。優しくそして開放的なピアノやストリングス(サンプリング)のサウンドがホワイトステージの空間に広がっていく。新作に収録されているゲスト・シンガー/ラッパーを招いた曲では、飽きさせない創意工夫が施されていた。トラヴィス・スコットが参加した“Mile High”、ラテン・ポップの歌姫ロザリアが参加した“Barefoot In The Park”では、彼らの声の存在感を引き出すため、それがクリアに聞こえるようなサウンド・バランスを取っていた。その効果か”Barefoot In The Park”では曲中のジェイムスとのヴォーカルの掛け合いがまるでMVのワンシーンを想起させた。さらに、アウトキャストのアンドレ3000が参加した“Where’s The Catch”では、ヴォーカル・セクションとラップ・セクションを完全に分けることにより、メロディとラップそれぞれが引き立つような、いわゆる今風なアレンジになっていて、ジェイムスの曲の特徴を考えるととても新鮮だ。
一方で旧作からの曲にも新作の開かれたマインドは大きな影響をもたらしていた。例えば“Life Round Here”では曲に明るいエッセンスを入れるためメジャー・コードのシンセフレーズを入れていたり、ラストの“The Wilhelm Scream”ではパキッとしたオリジナルのアレンジに、バンドメンバーである盟友エアヘッドによるギターの生音リフを重ねることで有機感を表現していたり。そしてエレクトロ・サウンドな“Klavierwerke”や“Voyeur”に関しては穏やかな曲の間にセットすることによって、新曲の柔らかく温かいイメージとこれまで以上のメリハリをつけるための大きな役割を果たしていた。そんな変化を感じ取ったオーディエンスはその都度対応し、時に体を揺らし、時に踊り、ジェイムス・ブレイクのライブを心から堪能しているようだった。
ライブはアンコールなしの計12曲、約1時間10分で幕を閉じた。当初ジェイムスのステージは1時間半で設定されていたため、観客からは早い終演を惜しむ声が多く上がっていたが、今回のライブは間違いなく彼の来日ライブの中でベストアクトだった。その要因となったのは、新曲から滲み出ていたオープン・マインドであり、旧作にアドオンされたニュアンスレベルの穏やかさであり、明確なネクスト・フェーズに彼が突入したことを感じられたことの喜びである。
冒頭にも書いたように、ジェイムスはなかなか抜け出せない闇の中でもがいてきた。しかし、そこからなかなか抜け出せなかったとしても、いつか絶対に光のある場所へ抜け出すことができる。そのことを、彼はこれまで出してきた4枚のアルバムを通して、精神的時間軸で体現し表現してきたことは最新作であり今日のステージが証明していた。だから、彼は今「Don’t miss it like I did.(僕のように人生を見失っては駄目だ)」と静かにピアノに乗せて歌うのである。
<セットリスト>
intro: Forword (feat. James Blake)
01: Assume Form
02: Life Round Here
03: Timeless
04: Mile High (feat. Travis Scott & Metro Boomin)
05: Barefoot In The Park (feat. Rosalía)
06: Limit To Your Love (Feist cover)
07: Klavierwerke
08: Where’s The Catch (feat. André 3000)
09: Voyeur
10: Retrograde
11: Don’t Miss It
12: The Wilhelm Scream
【追記】
7月29日の午後、ジェイムス・ブレイクのインスタグラム・アカウントにて、YouTube生配信の中止及び当日のセットリストについての説明アナウンスがあった。それによると「喉の違和感があり、これ以上負担をかけないためにセットの変更した」「本番開始直前の機材トラブルにより、フルプロダクションでのパフォーマンスが実現できない状況になった」とのこと。彼の一日も早い回復を願っています。
[写真:全10枚]