FUJIROCK EXPRESS '19

LIVE REPORTWHITE STAGE7/28 SUN

VINCE STAPLES

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Photo by 古川喜隆 Text by 石角友香

Posted on 2019.7.28 21:33

アート性とパーソナリティが同時に見える最新型

この日のホワイトステージは深遠なトラック上でラップするKOHHからVINCE STAPLES、そしてVINCEがフィーチャリングでJAMES BLAKEの“Timeless“に参加しているためにひと連なりのストーリーを感じて、続けて見た人も多いだろう。様々なスロットに時代を感じる今年のフジロックだが、2019年らしさを一つ象徴しているのが最終日のホワイトステージという気がする。

いわゆるダーティなラッパーとは真逆なメンタリティで、Odd Futureに見出されて以降、本国アメリカでグランジラップよりは日常的で、でも嘘のない表現が求められていたところ、ラップの内容しかり、ミニマルなベースミュージックやエレクトロに接近したトラックもリリックとの親和性が高く、評価を高めてきた彼。日本でも大雑把に言えば、ケンドリック以降、チャンス・ザ・ラッパーやタイラー・ザ・クリエーター、フランク・オーシャンら、個性が際立つラッパーをチェックしてきたリスナーならもちろん気になる存在だろう。無論、ヒップホップ・プロパーはいうに及ばず。

定刻にホワイトステージが暗転し、背景に写し出されたのは少し前までのアメリカを象徴する、8分割されたテレビ画面だ。億万長者クイズ、アニメ、料理番組、音楽番組などがランダムにコラージュされている。中にはVINCEを主役にしたアニメなども仕込まれ、なかなか周到だ。そこにマリファナの葉のバックプリントのロンTに細いパンツ、スニーカー姿のVINCEがスキップするように現れた。

冒頭は“FUN!”や“Run the Bands“といった『FM』からのトラックにのせ、自由にラップに沿ったアクションで一人きりのステージを縦横無尽に動いたり、顎に手を当てたり、昨夜、SIAで見たパフォーマンスを少し思い出させるような強迫観念的な謎の動きを見せる。この人、手首の柔らかさが印象的で、突然爆発したようにジャンプしたり、語り部のようにステージ前方に腰掛けラップしたり、音楽性同様、パフォーマンスも特定の誰かからの影響が見て取れない。それが今の若い世代には新鮮でクールに見えるのだろう。十二分に存在が突出した人だが、カリスマがあるかというと、それとも違う。フレンドリーかというとそれも違う。日本でライブができることを喜んではいたが、笑顔は一瞬。真剣なのか、あらゆることに醒めているのか、自分が巻き起こしたことも冷静に見つめている、そんな人なのだ。

エレクトロやベースミュージックといった音像にラップを乗せていくスタイルが定着した『Big Fish Theory』からの“Big Fish“や“Rain Come Down”などは非常に演劇的。中盤から後半には、淡々とした調子でオーディエンスを煽り、大きなサークルを作らせてはモッシュを促していた。VINCEの求めていることに即リアクションできるという意味で、ホワイトステージの前方はちょうど良いスケール感だったようで、何度もサークルを作り、もみくちゃになっていた。ただ、自分で指示しながら虚無な眼差しを向けるVINCEは最後まで何を考えているのかわからなかったが。

しかし思えば、音楽の話は聞かれず、儲けてるかどうかばかり聞かれるインタビューのバカバカしさに辟易し、そんなに人の音楽は聴かないとまでいうVINCE STAPLESというアーティストにとって大事なのは、くさい言い方をすれば彼にとってのリアル、それは間違い無いだろう。そう考えるとテレビ画面の演出も皮肉が効いている。

旧来型じゃない、ヒップホップのセオリーにもハマらない、ブラックのミュージシャンの規範になるようなことを別にしているわけじゃない。グランジラップのようなブームとも違う。彼自身は運動神経最高なオタクのような相反する資質を持ち合わせているように感じたが、それって世界中の最新のラップカルチャーに触れているユースの「なりたい人間」なのではないか。抜群の音響と圧倒的な演者一人がいれば、それでいい。そんなアクトを終えた彼は深々をお辞儀し、素早くステージを後にした。新しい……。VINCE STAPLESは誰にも似ていない。

[写真:全10枚]

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7/28 SUNWHITE STAGE