FUJIROCK EXPRESS '19

LIVE REPORTRED MARQUEE7/28 SUN

STELLA DONNELLY

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Photo by 平川啓子 Text by 阿部仁知

Posted on 2019.7.28 19:17

レッドマーキーは虜に!愛らしくも示唆的な彼女が示すポップの現在形

開始10分前から、大勢の人が詰めかけるレッドマーキー。サウンドチェック中のバンドから、聞き覚えのあるフレーズが飛び出すだけで歓声があがり、注目度の高さが伺える。オーストラリアはパース出身のシンガーソングライター、ステラ・ドネリーの待望の初来日ステージだ。

ABBAの“Dancing Queen”が流れる中、踊りながら登場したステラ。幼少期の自らの写真が大写しとなったスクリーンをバックに、「元気ですか!」といきなり日本語で会場を沸かせると、1曲目“Grey”が始まる。ハイフレットにカポタストをつけ、シンプルに爪弾くその姿は、ジェフ・バックリィやエリオット・スミスといった往年の名シンガーソングライターを彷彿とさせる。歌心溢れる甘美なメロディに、どことなく憂いが混ざるあの感じだ。

“You Owe Me”、“Beware of the Dogs”、“Mosquito”と続く弾き語りパートでは、表情豊かな歌声でシンガーとしての実力を存分に発揮するステラだが、その姿はどこまでも愛らしくキュート。オーストラリアでYouTube配信を観ているという父親に、「ハーイ!ダッド!」と声をかけたり(そう考えるとすごい時代だ)、ギターを弾く仕草や、ふとした表情などすべてが愛おしい。レッドマーキー中が彼女に夢中になり、一曲ごとに大歓声が湧き上がる。それを見て照れたように笑うステラもまたかわいい…。

続く“Old Man”でいよいよバンドが登場。ドラムやベースを加えたビートに、奔放に動き回るステラはさらに愛らしさを増しているが、「あなたは私が怖いの、おじいさん? それとも、私がしようとしていることを恐れているの?」と刺激的な言葉が飛び出すこの曲。男性社会に対する痛烈な言葉で、#MeToo時代のアイコンとなった彼女だが、いたずらに分断を煽るのではなく、どこまでもキュートにポップに表現するからこそ、垣根を越えて誰からも愛されるのだろう。僕も少し考え込んでしまう。

そんな彼女の魅力がいっぱいに詰まったのが“Die”だろう。キーボードのジャックとともに、コミカルな振り付けを披露するポップソングに、会場はキュンキュンしっぱなしだが、「死にたくない!」を連呼する姿は、Chvrchesのローレン・メイベリーとも似た、意志の強さを感じさせる。決してかわいいだけではないのだ。そして圧巻は、真に迫る歌声が胸に刺さる“Boys will be boys”。「男の子なんだからしょうがない」と諦めにも似た皮肉を込めたこの曲を、会場中が見守る。僕は、わけもわからずウルっとなってしまう。

最後は「一緒に踊ろう!」と、キャッチーなダンスナンバー“Tricks”でレッドマーキーを朗らかな気持ちで包み込んだステラ・ドネリー。しかし、それ以上に大切な何かも、残していったように思える。自然体で愛らしい彼女の表現を観ていると、シリアスな社会問題も自分事として入ってくる。これこそが、無知と偏見の荒野を切り開くポップミュージックの精神を体現した、ステラ・ドネリーのパワーなのだ。

[写真:全10枚]

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7/28 SUNRED MARQUEE