LIVE REPORTFIELD OF HEAVEN7/26 FRI
中村佳穂
歓喜の祝砲、フジロック一音目
2019年7月26日、午前11時、フィールド・オブ・ヘブン。しっとりした山の空気と包み込む自然の雄大さを全身に感じながら、飛び交うシャボン玉やトンボの羽ばたきにも向けられたおおらかな愛。存在するすべてのものに強烈にフォーカスした中村佳穂のパフォーマンスは、まさに「いま、ここ」だから生まれたものだった。
彼女への、いや、フジロックへの期待感に満ちたソワソワした雰囲気の中登場した中村佳穂は、「そこで飲み物買ったよー!かんぱーい!」なんてはしゃいでみせたのも束の間、一音目のピアノだけで僕らを釘付けに。アドリブの歌に乗せて、朝早くからヘブンのフィールドを埋め尽くすオーディエンスへの感謝と喜びを共有しながら、3年前のジプシーアヴァロンでのステージを懐かしむように歌う彼女。傑作『AINOU』をものにし、日本中の注目を集める中でのステージは感慨もひとしおだろう。噛みしめるように歌う姿を観ているとこちらまでうるっとしてしまった。
そして、なだれ込むように歌に入り、バンドが合流していく。切り裂くような西田修大のギターに、空気をドライヴさせるMASAHIRO KITAGAWAのコーラス。それらが中村のコントロールする低音と絡み合い、まるで彼ら自身すら知らなかった、未知の感覚を呼び覚ますようなスリリングなジャムセッションに発展する。「音楽が生まれる」とはこういうことをいうのだろう。僕はメモをする手を止め、ただただこの瞬間に浸っていた。
そして、さりげなく登場したホーンセクションの3人を加えた“LINDY”で中村佳穂BANDの真骨頂をヘブンに叩きつける。日本人が持つ土着のビートが異国情緒と混ざり合うようなこの感覚は、彼女の言葉を借りるなら「あの感じ」だろうか。“きっとね!”でのギターやコーラスのソロパートに向けられる中村の表情は、なんとも嬉しそう。彼女も僕ら同様に、素晴らしい音楽をただ純粋に求める参加者なのかもしれない。そんな姿になんとも胸を打たれるのだ。
全身全霊で音楽の喜びを表現した中村佳穂BAND。「フジロックの一音目に選んでくれてありがとう」と投げかけていたが、とんでもない。こちらこそ声を大にして言いたい。フジロックの一音目にここにいてくれてありがとう。
[写真:全10枚]