FUJIROCK EXPRESS '21

LIVE REPORTGREEN STAGE8/21 SAT

SIRUP

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Photo by 森リョータ Text by 石角友香

Posted on 2021.8.21 14:59

挙げられた手がいつかつながりますように。

終盤のMCでSIRUPは「フジロックのグリーンステージにR&Bやソウルを自分なりに表現している日本人アーティストが立つのは多分初めてじゃないか」と、自負心と気概を見せていたが、個人的には遅すぎるぐらいでは?という気持ちが先立った。スケール感や知名度こそ違うけれど、コロナ禍じゃなければシルク・ソニックがフジロックにラインナップされててもおかしくないよね?と思うわけである。アンダーソン・パークだってグリーンのステージに立ったわけだし。

R&Bやネオソウル、ヒップホップのアーティストはもっと多くてもいいと感じる自分のような音楽ファンかつフジロック好きにはこの機会にSIRUPの美声と根拠のちゃんとある愛情表現が多くの人の目に触れるのは単純に嬉しかった。しかも6人体制のフルバンドでの登場である。生音のアンサンブルとスキル、SIRUPの歌をともに歌うような演奏に、単なるサポートの枠を超えた関係値を見た。

当意即妙なバンドアンサンブルで歌に寄り添いつつ、アゲていくデビュー曲“Synapse”などを序盤に配置し、歌の確かさにグリーンの後方で寝そべっている人もビジョンぐらいは見るようになる。SIRUPは「音楽が好きなら、音楽で見知らぬ同士が一つになれる感覚は知っているはず、泳ぎましょう」と“SWIM”を披露。驚異的な高音のロングトーンも上手くても刺さらない人のそれと違って、上手いと言語化する感想の前に心臓が掴まれて、同時に癒やされている。ロングトーンの締め方が上品なのだ。歌に人柄を見て、次第に前方エリアにも人が集まる。フェスキッズ風の男子が首でリズムを取りながら歩いている。そんなちょっとした新しい光景が可視化されるのがフェスティバルの醍醐味だし、大好きな場面だ。

車のCMにも起用された“Do Well”では座っていたカップルも立ち上がって踊る。そうして少しずつSIRUPの周囲に仲間が増えていく感じ、というのは妄想がすぎるだろうか。

終盤、彼はコロナ禍のみならず、ここ数年、しんどい思いを抱えながら生きてきたという。彼の希望は「誰しもが守られる社会」であり、その思いが端的に表出したのが新作『cure』であり、現実世界でも弱い立場にある人が生きやすい施策に携わったり、外国人への偏見とも闘っている。そういう背景がある彼がお互いを思い合おうと歌うと、どんな言葉よりストンと自分の中に落ちるものだ。祈りのようでもあるし、ただ思っているだけではだめだとも言われているような“Thinkin about us”はいつでも思い出したい曲になった。

いいことをするのはクールだ。いやもっと言えばいいことをするのは当たり前だといえるぐらいがクールなのかもしれない。温かくて、いつでも誰でも入ってくることができるフレキシブルな音楽、それがR&Bやソウル、ヒップホップのDNAからSIRUPが受け継いだものだと思う。この日、グリーンステージのフィールドで挙げられた手がいつかつながりますように。

[写真:全10枚]

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8/21 SATGREEN STAGE