LIVE REPORTGREEN STAGE8/22 SUN
忌野清志郎 Rock’n’Roll FOREVER with ROUTE 17 Rock’n’Roll ORCHESTRA feat. 仲井戸”CHABO”麗市 GUEST:UA、エセタイマーズ、奥田民生、GLIM SPANKY、甲本ヒロト、チバユウスケ、Char、トーキョー・タナカ/ジャンケン・ジョニー、トータス松本、YONCE
Photo by MITCH IKEDA Text by 三浦孝文
Posted on 2021.8.23 03:14
苗場の地に再び舞い降りたキヨシローの魂
フジロック2021も早くも最終日。とっぷりと日も暮れ、ぼちぼち終幕へと向かっている。次のステージにワクワクしつつも、どうしようもない寂しさに襲われる時間帯だ。これからここグリーンステージに登場するのは、今年のフジロックの目玉のひとつ、忌野清志郎 Rock’n’Roll FOREVER。2009年にこの世界から姿を消した我らがMr.フジロック、忌野清志郎(以下キヨシロー)。フジロックの箱バン、ROUTE 17 Rock”n”Roll ORCHESTRAの豪華メンバーたちが忌野清志郎 Rock’n’Roll FOREVERとして、キヨシローのご機嫌なロックン・ロールナンバーを繰り広げるのだ。
開演直前まで強く降り注いだ雨も止み、まさしく雨上がりの夜空の下、流れる”清水次郎長伝の石松三十石船道中”とともにザ・タイマーズのオマージュバンドのエセタイマーズの4人が登場。フォトピットに乗り入れられたトラックの荷台に特設されたテントステージにて(「ステージに上げてもらえねぇんだよ!バカヤロー!」とのことだ)、ザ・モンキーズの名カバー曲”デイ・ドリーム・ビリーバー”を披露。冒頭のお馴染みのフレーズが流れるだけで周囲の熱がグンと上がるのが感じられた。
どことなくBRAHMANのTOSHI-LOWによく似た人が、アジアン・カンフー・ジェネレーションのゴッチに似ている人に「言っちゃえよ!」と発言を促す。死んでもいいくらいの覚悟をもって苗場入りをしたこと、ここがグラウンドゼロみたいな気持ちで、愛し合って、許し合って、みんな家まで無事に帰って、生き延びて、周りの自分たちが関わっていない様々な人生のことも想像しながら、またこの素敵な場所でみんなに会えることを楽しみにしていると感謝を表した。ハイスタのツネさんに似ている人が叩き込む激しいドラムソロからの”TIMERSのテーマ”の替え歌を披露。差別をやめてよ!平和が大好き!お酒が大好き!来年は君と笑っていたいよー!こんなでたらめな政府とおさらばしたいよ!と歌に乗っけて伝えたいメッセージをこれでもかと届け、次の曲をマイクなしの状態で奏でながらトラックとともにステージ脇から退出していった。のっけから何という粋な演出だろう。
エセタイマーズの退出中に、ステージからボビー・ダーリンによる”Mack the Knife”が流れはじめ、【忌野清志郎 Rock n’ Roll Forever】のサインに照明がともる。MCのクリス・ペプラーが、キヨシローのソウルはここ苗場の地に根付いていると宣言し、今朝はキャンセルになった民謡クルセイダーズの代役として急遽アコースティックセットを披露したGLIM SPANKYの二人を呼び込んだ。彼らがセレクトしたのは”僕の好きな先生”。フロントウーマンの松尾レミ自身が美術の大学に行って、美術の先生にお世話になったことから、キヨシローの体験に基づいた大切なこの歌に自分を重ねて選んだとのこと。ハスキーボイスで響くサビのパートが身震いするほどかっこいい。
お次はキヨシローと縁が深いChar。入りから奏でられた十八番の流麗なフレーズにジーンとさせられる。キヨシローとの共作曲の”かくれんぼ”を披露。「ひとりでかくれんぼ」をしている孤独なオニに対するシンパシーあふれる歌詞にも思わず目頭が熱くなってしまう。
ROUTE 17 Rock”n”Roll ORCHESTRAのメンバー全員が顔を揃え、The Whoの超名曲”My Generation”をかますと、あのフレーズが!”JUMP”だ。トータス松本が、上下黄金のスーツでキメ、キヨシローよろしくマントを装着してステージ左右に歩きまわり、嬉しそうに歌い上げる。「JUNP!」とみんなと楽しく飛び跳ねるのはやっぱり最高だ。ライヴっていいなぁ。
キヨシローのバディ、CHABOこと仲井戸麗市がギターをかき鳴らしながら満を持して登場。”よォーこそ”で熱く、場を仕切り直す。相変わらずめちゃめちゃかっこいいなこの曲は!「ヘイヘイ!フジロック!よォーこそ!」、「どうだい、のらないか?よォーこそ!」。そりゃぁ、のるに決まってるでしょ!
SuchmosのYONCEが不思議なダンスしながら参上し、”すべてはALRIGHT”が開始。よりR&B感強めのYONCE印がスタンプされた歌に昇華され仕上げられていた。
青木ケイタのバリトンサックスが”ボスしけてるぜ”のリフを重たくかつ軽妙に響かせる中、チバユウスケが登場し、”あきれて物も言えない”へなだれ込んだ。The Birthdayの曲と言われても不思議ではないほど完全にチバの歌になっている。中盤に”ボスしけてるぜ”のリリックも入れながら巧みに、かつクールにがなるのだ。
ステージ横から嬉しそうに飛び跳ねながらUAが登場し、超名曲”トランジスタラジオ”を投下。「聞いたことのないヒット曲」にインスパイアされ「覚えてるかなこんなヒット曲」と自身の名曲”情熱”を挟み、とにかく楽しそうに歌い上げる。次にセクシーな”スローバラード”を歌うのは、「たみお・おくだ!」と奥田民生を呼び込み「風邪を引かないでね!」と雨に打たれるオーディエンスを気遣いステージを後にした。
民生が渋くしめやかに”スローバラード”を歌い上げる。時が止まってしまったかのような感覚に陥るほど。間奏部でのブロウしまくるサックスの鳴りもたまらなかった。ここまでそれぞれが愛するキヨシローチューンを披露してきたが、時に笑顔にさせ、時にしんみりとさせ…あらゆる感情を想起させてくれる楽曲の振り幅の大きさにあらためて驚かされた。
ギターのリフがザクザク刻み込まれると、お馴染みの2匹のオオカミが。トーキョー・タナカとジャンケン・ジョニーだ。キーボードの跳ねるリズム音が最高にロッキンブルーズな”ドカドカうるさいR&Rバンド”を発射。MAN WITH A MISSIONとキヨシローとのリンクには疑問を持っていたのだが、まったくの誤りだったようだ。想像以上のキヨシロー然としたロッケンローを表現しきっていた。ジャンケン・ジョニーが、この錚々たるメンバーと集合写真を取った時、チバユウスケに思いきり頭をとられそうになりましたと思い出を楽しく語っていたのも何とも可笑しかった。
甲本ヒロトがいつもの痙攣したような動きで飛び出してきた。すぐにTシャツを脱ぎ捨て、上半身裸になり「キモちEE!」とシャウト。ドンピシャ過ぎるセレクトに思わず爆笑。ヒロトの人生そのものな曲なのだろう。最後に歌詞を間違えたようで、『おそ松くん』のイヤミのシェーのポーズをして、「間違えたー!」と恥ずかしそうに、そして嬉しそうに笑顔でステージを後にした。
ここから再びCHABOが場をリード。「フジロック、2年ぶりにようこそ。キヨシロー、来てるんじゃないかな。フジロック大好きだったから」「ご機嫌なやつらが集まって歌ってくれてるぜ!みんな一緒にいるぜー!」と空に向かって投げかける。もうこのくだりだけで泣けてしまう。「清志郎くんが愛していたラヴソング、俺たちRCが大事にしていたラヴソング」と”指輪をはめたい”を披露。梅津和時がブロウするシャープなサックスのソロも絶妙な味わい深い音を披露している。最後の梅津とチャボの掛け合いは涙ちょちょ切れものだ。ラストは「田舎へ行こうー」の一言で締めくくった。
ROUTE 17 Rock”n”Roll ORCHESTRAのバンマスの池畑 潤二が叩き出すビートが続く中すべての出演者が順に登場し、「皆さーん!最後にもう一曲!日本の有名なロックンロール!」と甲本ヒロトが叫び、”上を向いて歩こう”を全員で合唱。「幸せは雲の上に」のところで、感極まって涙が流れてしまった。豪華な面子がもうこれでもかと楽しそうに次々にソロで繋いでいく。これだよ、これがロックンロール!割れんばかりの拍手の中、歓喜のステージが完了した。ステージが暗転し、画面に映し出されたのはフジロック出演時の映像”雨上がりの夜空に”。本当にキヨシローはここにみんなと一緒にいたんだね!
キヨシローの音楽と言葉、魂は今もフジロックに、苗場の地に、我々フジロッカーたちの心に生き続けている。東日本大震災に新型コロナ…言いたいことがどんどん言えなくなってきている時代にキヨシローが残したものの重みが年々増していっているように感じられてならない。今、大切なのは互いへの「愛し合っているかい?」からはじまるコール&レスポンスだ!
[写真:全10枚]