LIVE REPORTWHITE STAGE8/20 FRI
ドレスコーズ
声を出さずに怒りを表明する最高の方法
あまり周年とかに興味はないのだが、志磨遼平がフジロックの地に立つのは2011年の毛皮のマリーズ以来。しかも今日と同じくホワイトの一番手である。10年の間にマリーズは解散し、志磨はすでにドレスコーズという可変的な音楽集団に数十人以上のメンバーを迎えている。しかも今年はサブスクリプション・サービスの特性を活かしきって、2〜3週間ごとに曲が変化・成長するという前代未聞のアルバム『バイエル』をリリースした(してきた)。かつ、そのツアーは公募メンバーによる「音楽を見知らぬ誰かと作り上げる」試行の真摯な表現だった。なので、今年のフジロックでのドレスコーズ最大の興味は端的に「バンドメンバーは誰?」ということと、コロナ禍だからこその表現(例えば、愛しているからこそ触れられないとか、不要不急だけどすてきな歌とか)をした『バイエル』をそのまま披露するのか?ということだった。
結論から言うと、マインドは2021年の『バイエル』のツアーを継承していたと言えるのではないか。メンバーは志磨ワークスではおなじみの有島コレスケ(Ba)、アルバムにも参加していたskillkillsのビートさとし(Ds)、中村圭作(Key)、そしてLEARNERSでも出演している堀口知江(Gt)というラインナップ。堀口のゴールドのブラストカルトのギターがステージにあるだけでなんとなくバンドサウンドのイメージができた。
志磨のアコギと中村のオルガンに乗せて、フロントの3人がうやうやしく合唱する“大疫病の年に”を演奏し終えると志磨は「おはよう。よろしく。みんなよく来たね。ドレスコーズです」と短く言い、ロネッツ風のビートが甘酸っぱい“はなれている”へ。50s風でもあるし、志磨のボーカルの気だるさはヴェルベット・アンダーグラウンドのようでもある。『バイエル』収録曲以外にも、前作『ジャズ』からロマ音楽風の“エリ・エリ・レマ・サバクタニ”などエキゾチックなメロディも聴かせたが、バンド・アレンジがミニマムで隙間が多いので、ジャンルの越境が気にならない。
今年の状況を指して「初めてのロックフェスティバルで、みんなここに来ることも来ないこともいっぱい悩んだと思うの。次の曲は人間は変われるのか?という曲です」と話して、“ローレライ“へ。みるみる顔が赤く陽に灼けていく志磨。真剣な表情で〈ひとをみくだすくせを/自分のことをみくだすくせを/なおすから どうかいかないで〉、そして比喩として、こんな汚れた手でよければ、なんでもすると誓うのだ。思わず涙も出るというものだけど、我々の手もまた汚れているかもしれず、いつ誰を傷つけてしまうかわからないという恐怖とロマンチックがないまぜになってしまう。志磨自身はオーディエンスには「どうぞ健やかに」としか言わないけれど。
また「今は離れ離れの僕たちがいつかまた会えますように、心を込めて歌います」と、ここに来ない選択をしたファンにも“愛のテーマ”を届けた。志磨曰く、ロックンロールには力があると。まず健やかに。そして愛と平和、心に怒りを持つこと、そしてユーモア。「黙って怒りましょう」と、ラストの“愛に気をつけてね“では、志磨を真似て、そこここで中指が突き立てられる。その怒りは漠然としたものから具体的なものまでもはやマーブル状に混ざりまくっている。逡巡しながらここにいる自分も含めて、大声を出さずに怒り続けていく術と仲間がいることをドレスコーズは確信させてくれた。確実に10年前よりしぶとい志磨遼平とその仲間がいた。あなたは10年で何が変わり、何が変わっていませんか?
[写真:全10枚]