FUJIROCK EXPRESS '21

LIVE REPORTWHITE STAGE8/21 SAT

NUMBER GIRL

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Photo by 平川啓子 Text by 梶原綾乃

Posted on 2021.8.23 12:28

20年ぶりの「その先」がここに

中学2年生の少女に伝えたい。ナンバーガールは復活すると。いま思えば、ライヴハウスで『サッポロOMOIDE IN MY HEAD状態』の上映会が開催されたときに、再生機が故障して“URBAN GUITAR SAYONARA”から先が再生できないことがあった。スタッフが何度かチャレンジしてみたけど、どうしても止まっちゃってその先に行けない。そんなとき「本当の『その先』に行くには、どうしたらいいのかなあ……」なんてぼんやり思っていたことを思い出す(無事に再生できたんだけれども)。それくらい再結成への壁は高くて、ありえないものだと思っていたから。

でも今日は違う。かじりつくように何度も再生したあの2001年。あの続きが、続きが!目の前に広がっている。私は「リアルで彼らを追えなかった悔しさで生きている」タイプの人間で、今こんな文章を書いているんだけれども、ここにきてまさか、その悔しさが成仏することになるとは。でも、リアルタイムで追ってきた人たちの喜びといったら、たまらないだろうな。ライジングサンでの公演中止はとても辛かったけれども、彼らの歴史に「20年ぶりのフジロック」という1ページが加わるから、今日は記念すべき日だ。本当によかった。

21時の空。天気は、豪雨じゃなくて、ちょうどよく曇り。願わくばグリーンステージだったのだけれど、あのホワイトステージの音響で聴く彼らも贅沢だろう。おなじみの「福岡市博多区からやって参りました、NUMBER GIRLです」の挨拶から、“タッチ”が始まる。ジャリジャリと尖ったテレキャスターが熱を帯びて、向井秀徳(Gt,Vo)が深い深いシャウトをすると、気づいたらここはフジロックだった!
そのまま“ZEGEN VS UNDERCOVER”へ。ただでさえバッキバキな中尾憲太郎47才(Ba)のプレイ、今日はよりいっそう締まっていてゾクゾクする。「鉄のような鋭い風が吹いていく、そんな季節。また、やって、くるんだろうか」と向井のMCから“鉄風 鋭くなって”へ。ああ、ここでもイントロのベースに刺されて死ぬ。声をあげたくて仕方がない観客たちが、一気に感情を爆発させていた。

「今週のスポットライト、第836748位、ナムアミダブツだ!」なんて小ネタから始まる(語呂合わせじゃないんかい!)“NUM-AMI-DABUTZ”。田渕ひさ子(Gt)によるイントロのアルペジオは粒が揃えられていて、音の断面がなんともクリアだ。ベース以外のすべての音という音が自由に暴れまくるこの曲だが、今回はかなり淡々と暴れている。今日にかける彼らの本気ぶりが伝わってくるし、20年経っても変わらない強靭なグルーヴに圧倒された。この曲だけでもずいぶん化けているなと思うが、もっと驚いたのは、「あの名前を呼べ!あの子はいつかの透明少女」で始まった“透明少女”。イントロ明けからのアヒト・イナザワ(Dr)のドラミングがどことなくサーフロックなテイストを潜ませていて、よりいっそう夏を感じる仕上がりになっていた。

“MANGA SICK”の荒削りなイントロは、いつ聴いても脳天を直撃。ドラムに合わせて入れられる跳ねるようなバッキングで、さらに踊れる気がする。そして、“U-REI”では、弦が引きちぎれるくらいのセッションが繰り広げられる。ぶよんぶよんにファットな低音、声を震わせおどろおどろしく歌う向井。怪談話をしているときのような、冷たーい空気が流れていて、背筋が凍るのを感じた。続いて、日比谷野音の配信で解禁された新曲“排水管”。まさか彼らの新作が聴けるとは。ナンバーガールであってナンバーガールじゃないような新しさ、でもZAZENBOYSではないのは確か。そんな絶妙なところを行く新機軸に酔いしれた。

そのあとも、“TATTOOあり”と“水色革命”などおなじみのナンバーを2021年の解像度でもって繰り広げ、終盤はさらに加速。「ドラムス・アヒトイナザワ」から“OMOIDE IN MY HEAD”だ。2001年の夏の日には一番最初にプレイされた、彼らを象徴する曲。あのこもったドラムは夏の湿気を帯びていて、やっぱりこの音本物なんだよな、としみじみ感動してしまった。そして最後の“I don’t know”では、ギター、ベース、ドラムすべての音がものすごい熱量でかき鳴らされ、観客を大いに圧倒した。ワンマンライブ級の90分で、最後の最後まで、カラッカラになるまでエネルギーを使い果たした彼ら。その衝撃波を全身で受け止めてしまった私達はただ立ち尽くすしかなかったし、完全に打ちのめされてしまった。

20年を経て、今を生きている音がする。進化も続けている。再結成したバンドは数あれど、その後に待ち受ける壁というのはなかなか高いものだ。そんな壁を彼らはいとも簡単にパスしていて、平然とした顔で次の壁を登り始めているんだ……アンコール“IGGY POP FAN CLUB”を聞きながら、私はそんなことをぼんやり考えていた。2021年8月21日。ナンバーガールの歴史の目撃者であることを誇りに、私も前に歩み出していきたいと思う。

[写真:全6枚]

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