LIVE REPORTWHITE STAGE8/21 SAT
tricot
尖っていた頃よりずっとタフなステージ
小雨かと思えば灼熱の太陽が照りつけたり、昼間のホワイトステージは過酷だ。過酷なステージの口火を切るのはフジロックには9年ぶりの登場となるtricot。当時のエキスプレスのレポートによると、前回はGYPSY AVALONのトリ。まだ「舐められてたまるか」精神と、「このリズムで踊れるか?」という挑発的な姿勢だったようだ。自分自身、ライブハウスで2014年ごろから見始めたのだが、演奏に自信をつけて楽しむようになっていくに従って、楽曲のバリエーションも多彩に。大人になったというより、アーティストとして自然体でいられるようになったのだろう。
まずキダモティフォ(Gt/Cho)が登場し、開始の狼煙のようにフレーズを決め、中嶋イッキュウ(Gt/Vo)、ヒロミ・ヒロヒロ(Ba/Cho)、吉田雄介(Dr)もステージに現れる。全員、白い衣装で特筆すべきは中嶋の金髪のポンパドール風のヘアスタイル。グエン・ステファニーのようなオーラを纏っている。昨夜のTempalayも白い衣装だったが、2バンドともすごく似合っているし、フェスの礼装のようで美しい。緩急、剛柔、テンポチェンジを特徴とするtricot。ライブはそのスタイルを確かなものにした2013年のアルバム『T H E』から“pool side “ “POOL”と続ける。躍動するキダとヒロミとは対象的に中嶋はフィールドを見据えるように淡々と歌う。高音のロングトーンに感情が乗っていく。
アーバンな大人のポップスのようなメロディを持つ“右脳左脳”や“秘密”では中嶋はハンドマイクで情感豊かに歌う。この激しさと儚さのアンビバレンスや両義性は演奏に落とし込まれ、どんなにマイナーの16ビートっぽい曲でもキダの切り込むようなリフと轟音が、tricotのシグネーチャーのように曲のどこかで存在感を示す。そう言えばキダの手の甲には「甲」とマジックで描かれ(いつもなのかもしれない)、背景の映像にはメンバーの特徴を一人に集約した人物のイラストが映し出されていた。
いまの状況に偶然にもハマる〈世界がどうなっているとか/誰が悪いとか/そんなことより話したいことがあるわ〉と歌う人気曲“Potage”がしみる。中嶋が9年ぶりに念願のフジロックのステージに立てたことを感謝し、今日が嫌な日じゃなく、未来に続いていく日になればいいという意味の言葉を発した。尖っていた頃とは違うタフさを様々なバンドに感じるのも今年のフジロックの特徴だ。
キダの美学が冴え渡る、一つの磨き上げたリフで潔くエンディングを締める姿そのもの、それに息を合わせる3人。自分の鳴らす音が巻き起こす魔法と、それに開放されているオーディエンス、そしてそれを受け取り開放されるメンバー。バンドという美しい共同体をまぶたに焼き付けた。
[写真:全10枚]