LIVE REPORTWHITE STAGE8/22 SUN
TENDRE
プレイヤーからアーティストの道を選んだ答えを見た
サウンドチェックの段階から真剣な会話はもちろん、お互いを褒め合ったり、笑いも起きるのがTENDREバンドのいいところ。そのムードはライブが終わる頃、自分も心がけたいと思うに至る。理由は後述する。
パラッと小雨が降ったものの、本番開始とともに止むのはTENDRE(河原太朗)のフジロック愛ゆえか。小西遼(CRCK/LCKS、Sax)のサックスが心を溶かすイントロから、”LIFE”でスタート。Aメロの途中、大きな声で「ただいま、フジロック!」という言葉は音楽ファン、アーティスト、そのどちらの気持も含まれている印象だ。しかし、明らかにここにいるオーディエンスの気持ちも乗せて、引き受けている。なんだか太朗さんが大きく見える。パーカッションにギャラクシー松井を迎えたバンドはグルーヴも多彩になり、メンバー間のリラックスしつつの真剣な演奏にさらに厚みを加えている。“DISCOVERY”のようなちょっと後ろノリな曲では特に。
序盤で早速、新曲“PARADISE”を披露。TENDREもAAAMYYY(Syn)もエレキギターを持ち、ファンクを基調とした曲に新しいニュアンスを加える。ハードなギターを聴かせたからか、曲が終わると「つってね。面白かった」と、感想を発するのはステージが大きくなっても変わらない。次の曲に移ろうとしたところ、キーボードの端っこにトンボが留まっている。「ちょっと待って、トンボ」と言い、飛び去ってから“DRAMA“を始めたのだ。苗場のいろいろを楽しむことが、フジロックのライブをリスナーにも忘れがたいものにする。ゆるく踊れるムードが移動している人の足を止めていく。
数曲演奏したところで、折りたたんだ紙を取り出したTENDREは「ちゃんと喋ろうと思って手紙を書いてきました」と、「音楽を愛する皆さん」という書き出しで、ここにいる人、配信を見ている人、来ないことを選択した人、出演できなくなってしまったアーティスト、出演を辞退したアーティスト、そして何より地域の皆さんにおつかれさまです、と挨拶。そして「選んでくれてありがとう」と。ここに立っていることの意味をこの先、何十年も忘れずにいたいです、と話した。文化や音楽を守るために必要なのは話し合うことだと言い、ここ最近の思いが詰め込まれたニューアルバムから、誰もがその話し合いの一人であるという意味の“PIECE”を披露。この場所が大事な人にとって、彼の真剣な態度は1ミリも茶化せるものではなかった。昨日のSIRUPにせよ、TENDREにせよ、誰のどんな意見にもその人の理由があるだろう、そんな想像力に基づいているから、冷静で温かい。
マルチプレーヤーから、自分の考えを歌うシンガーソングライター的な表現者の道を選んでから3年強。その理由が音や言葉、ステージングに明確に現れた日として、この日はしっかり記憶しようと思う。
人気曲“hanashi”のイントロからクラップが起こるような自然なムードが出来上がり、メンバーもTENDREの音楽のファンであることが演奏からわかる。今年のフジロックは様々なバンドを掛け持ちしてるミュージシャンが多いが、このバンドも松浦大樹(Dr/She Her Her Hers、LUCKY TAPES、奇妙礼太郎)、小西遼(CRCK/LCKS、Sax)、高木祥太(BREIMEN/Ba)、AAAMYYYという布陣。連日のステージで存在感を見せる彼らが、もっともオープンにオーディエンスに向けて参加を促している、TENDREの音楽が為せる技なのだろう。
ラストは2018年のジプシーアヴァロン、2019年のレッドマーキーでも選曲した“RIDE”で、ハンズアップした手が大きく波打つぐらい、その場にいるオーディエンスを魅了しつくしたのだった。大事なことはステージであろうと、手紙に書く。そんな太朗さんを真似して不要な照れや逃げをやめたいとも思ったのだ。真面目な話。
[写真:全10枚]