LIVE REPORTRED MARQUEE8/20 FRI
H ZETTRIO
本能を呼び覚ませ
まだ天気は持っている初日のレッドマーキーに登場したのは、おなじみのピアノトリオ、H ZETTRIOだ。近年の彼らは、冠番組「SPEED MUSIC ソクドノオンガク」 でのパフォーマンスに注目が集まったり、2019年から現在まで毎月、配信シングルをリリースしていたりと、とんでもない勢いで活動を続けている。2017年以来の登場となる彼らの今をぜひ観ておきたいと、会場には多くの人が集まった。
黒い背景にH ZETTRIOの文字が浮かぶと、メンバーが登場した。ステージ上手にH ZETT NIRE(Ba)、中央にH ZETT KOU(Dr)、下手にH ZETT M(Pf/Key)とそれぞれ位置につくと、「フジロックだよ」の一言とともに“タイガーインド”からスタート。カラフルな玉が跳ねるかのごとく、きらびやかで爽快なサウンドスケープが展開される。続いて、“炎のコンテクスト”は、H ZETT NIREのソロパートが印象的。しなる弦のうねりまで伝わってくるようなその音は繊細で、けれどもたくましくうっとりとしてしまう。
H ZETT KOUの繊細なテクが光った“風待月”や、歌えるようなはっきりとしたメロディが持ち味の“MOCHI”など、前半は配信シングルの楽曲を中心としたセットだ。中でも印象的だったのは、“祭りじゃ”。タイトルよろしくにぎやかなナンバーなのだが、BPM250超はあるだろうか、高速に畳み掛ける祭囃子が容赦なく我々を踊りへの世界へ誘う。H ZETT Mがショルダーキーボードに持ち替えると、ピアノソロへ。まるで河内音頭とかそういう曲の物語を詠んでいるような、癖と粘りのあるタッチに魅せられた。また、H ZETT KOUが途中で神輿を担ぐようなポーズをしていたりと、遊び心に溢れていた。
うねうねと独特に動く魅惑のベースソロから、おなじみPE’Zの“晴天- Hale Sola – ”へと続く。聞き馴染みの深いあのメロディが力強く鳴らされると、サビに合わせて左右に振られている手の数も、だんだんと増えてくる。アタックが強めのウォーキングベースを起点にじわじわと音の波が沸き立っていき、大団円へと向かっていく空気は迫力満点で、思わず息を呑んだ。
そのままのテンションで間髪入れず“天体イマジネーション”へ。トライバル感のあるドラミングに、きらきらと幻想的なメロディが乗っかっていく。その名の通り、夜空でも見上げているかのようなときめきが、宙に舞っている。近いと思っていたレッドマーキーの天井が、はるか遠くに見えてくるのだ。
そして、『2001年宇宙の旅』のオープニングで、CM曲などでも耳にする“ツァラトゥストラはかく語りき”から始まった、“Beautiful Flight”。この日最後の曲だが、彼らのスーパープレイの集大成と言ってもおかしくはなかった。とにかく、イントロからとてつもないスピードで進行していくメロとH ZETT Mの超絶技巧。手はだんだんと早くなっていき、足を大きく動かして、あの“無重力奏法”をキメると、観客からは大きな拍手が贈られた。
今日の彼らは、終始MCなし。あくまでもパフォーマンスだけで、みごとに観客の心をさらっていった。H ZETTRIOは、私達が空白の1年で忘れかけていた、「音楽で心動かされる喜び」をしっかりと思い出させてくれた。どんなことがあっても、音楽の衝動に耳を奪われ、心揺さぶられる体でいたい。そんなことをずっと思っていた。
[写真:全10枚]