LIVE REPORTRED MARQUEE8/21 SAT
THE SPELLBOUND
Photo by MITCH IKEDA Text by あたそ
Posted on 2021.8.22 18:32
2日目ラストのRED MARQUEE。浴びるような爆音に浮かぶ宇宙を見た
静かにステージに現れ、まずは、“なにもかも”が演奏される。背後の液晶には、まっすぐに赤いラインが引かれ、4つのスポットライトがそれぞれのメンバーに当てられる。最初の一音を聴いただけで、思わずぶわっと鳥肌が立つ。
そうだ、今日はフジロックの2日目。ヘッドライナーが終わり、本来ならばこれからが本番という時間帯である。人だって最も多い夜だ。日常から離れ、ビールのカップを片手に持ちながら、容赦のない低音に身を任せて朝まで踊り狂う。2年ぶりだし、いつもとは少し異なる2021年のフジロックではあったが、そうそう。これだ。深夜のRED MARQUEEはこうでなくちゃ。空気を揺らす爆音に低音、この空間にいるだけですり減っていた体力も精神力も戻っていく。
“名前を呼んで”へは個性のぶつかり合う福田洋子(Dr)と大井一彌(Dr)のドラムに小林祐介(Vo/Gt)のシャウト。走り出したくなるサウンドは、演出の効果もあってか、RED MARQUEEの空間そのものが更に広がる感覚というか、ひとつの大きな楽器のなかに入り込んだような感覚になる。
次に演奏されたのは、“はじまり”。観客を置いてけぼりにしてしまいそうなほどの圧倒のライブですっかり忘れてしまいそうにはなるが、実はこのバンドは、中野雅之(Programming)と小林祐介による2020年に始動したばかりのまだ新しいバンドだ。更に言えば、この日は2度目のライブとなる。この曲は、3カ月連続配信リリースの1曲目。まさに新たな物事がはじまっていくことを表現した曲なのだろう。
左右から攻め込むような強烈なツインドラムに、優しく伸びる小林の声。時折聴ける、裏声も気持ちいい。歪んだギターや奥行きを出す重なったシンセサイザーの音が惹き込まれ、思わず身体も自然と揺れる。広がり続ける空間にミラーボールが回り、まるで小さな宇宙に浮かんでいるよう。彼らのライブだけではなくて、これからの未来に対する「はじまり」を体現しているかのようでもあった。
クラップ&ハンズも起こり、波のように襲い掛かるドラミングに負けじと中野と小林が各々の音をかき鳴らす“YUME”のあとには、BOOM BOOM SATELLITESの“BACK ON MY FEET”の演奏が始まる。福田のあのスネアの音に注がれる中野のスタインバーガーのベース音が加わり、ぶつかり合うような激しいサウンドがたまらなく心地いい。
先日のLIQUID ROOMの公演でも披露されていた。だから、予想はできていたけれど、やっぱりフジロックの会場で聴けるのはうれしい。中野さんがまたバンドをやってくれるだなんて思っていなかったし。もちろん、同じバンドではないのだけれど、こうして再び聞くことができるのも嘘みたいだ。THE SPELLBOUNDには、THE NOVEMBERSの小林とDATS/yahyelの大井という下の世代が加入している。全体を通じて、特にこの曲を聴いていると、中野が2人を大いに信頼し、さまざまなバトンを渡そうとしているのがわかる。
ラストの“Flower”のあと、ステージからはけることなくそのままアンコールとして“おやすみ”がはじまる。夜も更け、2日目の最後に相応しい、ゆったりとした1曲。大きな音に優しく包まれ、子守歌のようでもあった。
メンバーのそれぞれが第一線で活躍しているのだから当然ではあるのだが、2回目のライブにして向かうところ敵なしというか。この音楽だけで、どこにでも行けるような、何にでもなれるような気持ちを抱いてしまう。RED MARQUEEの夜には、必ずとんでもないアーティストがいて、毎度のように腰を抜かすのだが、それはいつもと違う2021年のフジロックでも同じだったな。メンバー全員がステージを去るまで、観客たちからは惜しみのない大きな拍手が送られた。
[写真:全10枚]