FUJIROCK EXPRESS '21

LIVE REPORTRED MARQUEE8/22 SUN

GEZAN

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Photo by 粂井 健太 Text by 阿部仁知

Posted on 2021.8.23 00:42

それぞれの選択を

GEZANのライブを観てどう感じるのか?もしかしたらずっとそれが僕の指針のようなものだったのかもしれない。僕はちゃんと生きているのか?少しはマシな人間になれているのか?2019年のホワイトステージではただただ圧倒されるばかりだった。2020年のアルバム『狂(KLUE)』は冒頭の「今ならまだ間に合う」で半年間引き返していた。大晦日の『KEEP ON FUJI ROCKIN’ II』でのライブでは、GEZANとともにはじめる2021年を強く生きていこうと決意した。GEZANにとってその日以来のライブとなったレッドマーキー。僕が感じたのは大きな優しさだった。マヒトが言った「それぞれの選択を」という言葉が今も心に刻まれている。

サウンドチェックの段階からステージ上にはかなりの人数がいて、一斉に「Twenty!Twenty One!」と発声する音の圧に思わず唖然としてしまう。僕は何を観にきたんだ?彼らのライブが一回ごとにアップデートされていくのはわかっていたことだが、早くもここで何が起こるのか全く予想ができなくなり、期待と不安が僕の心に渦巻いていた。不安。GEZANのライブは否が応でも自分自身と向き合わされてしまうからだ。

『狂(KLUE)』全編に登場する数多の声をそのまま現場で再現するようなコーラスとバンド演奏に続いて、鹿のような被り物でマヒトゥ・ザ・ピーポー(Vo / Gt)が現れた“誅犬”。マヒトは「お前らの曲だよ」と投げかける。“EXTACY”では「時には起こせよムーブメント」なんて言葉が飛び出してくる。なんでそんなところから引用してくるんだ?Dance Dance Revolutionとあわせて90年代後半から世紀末のモチーフか?なんてことを思っている間にも激情のバンドサウンドと数多の声が迫り、考えずとも身体が動いて仕方がない。

“Replicant”、“AGEHA”、“Get Up Stand Up”とさらに加速していくバンドセッション。ライティングの赤で埋め尽くされるレッドマーキー。その様は神々しくも異様でもあり、呪術や宗教の儀式のようにも感じられるが、(今日はやらなかったが)僕の頭を舞っていたのは“赤曜日”の「GEZANを殺せ」というフレーズだった。観るたびに畏怖さえも感じるGEZANのライブだが、それでも彼らは神なんかじゃなく、目の前で繰り広げられているのは一人一人の人間による協奏だ。その力強い生命力に息を呑みながらも僕は身体で応えるように踊り続ける。

“東京”で照らされる真っ白なライティングと赤のコントラスト。石原ロスカル(Dr)の荒々しい打音に、 イーグル・タカ(Gt)がかき鳴らすギターの轟音。暴動のようなバンドセッションがレッドマーキーを揺らす。ここでも、マヒトは「お前らの曲だよ」と投げかける。“翠点”で息の限り声を伸ばすコーラスの人々。人間の息は永遠には続かないが、また別の一人が声を継ぎ足すことでどこまでも伸びていく歌声に僕はわけもわからず涙してしまった。ここでステージを去るコーラスをマヒトが紹介する。Million Wish Collective。なんて希望に満ちた名前なんだろう。そしてその名前に負けない素晴らしいパフォーマンスだった。

「メンバーが1人抜けたと思ったら20人になって帰ってきました」と語るマヒト。カルロスの脱退に伴い新たに加入したヤクモア(Ba)にマイクを振ると、彼は「ロックスターになりに来ました!」と叫ぶ。ピュアで清々しい宣言にマヒトも「難波ベアーズで言っとけばよかったよ」と出自のライブハウスに思いを馳せる。「裸の付き合いしようぜ」とイーグル。今日のGEZANはなんだか親しみやすい。そして降り出した大雨の中、バンド全員がコーラスをとる姿が印象的だった“龍のにほい”。“NO GOD”でも、はじめてのステージでもまったく狼狽えずGEZANのベースを勤め上げているヤクモアの勇姿を見て、まだ10代ながら〜などという必要性はどこにもない。

そして「友達の歌」という“BODY ODD”では、さらに荒々しさを増すバンドサウンドの中、山田みどり(the hatch)やNENE(ゆるふわギャング)など6人のゲストが矢継ぎ早にマイクを取る、迫真のセッションが繰り広げられる。おそらくこの数十秒のためだけにここまで来たゲストもいるのだろう。極限まで凝縮された声の応酬に、ただただ拳を握り踊り続けたものだ。

「道具でも武器でもないなんの役にも立たないのが好きで」と音楽への想いを語るマヒト。彼は「感動でウイルスに打ち勝とう」などというフレーズの無力さや、鎮座DOPENESSや折坂悠太といったここに来れなかった(あるいは自ら行かないという選択をした)友人のことを想う。そして「感動とかで締めたいわけじゃなくて」と温かい拍手を制してまで自分自身で選択し続けることをオーディエンスに伝え、はじまったのは“DNA”。「僕らは幸せになってもいいんだよ」という言葉にはやはり感動してしまうが、それで立ち止まってはいけないんだ。

最後は再びMillion Wish Collectiveがステージに戻り“リンダ リリンダ”。荘厳な雰囲気の中、一人一人の歌う姿がスクリーンに映り、ステージ上の全員で「Whatcha gonna do?」と繰り返し僕らに投げかけ、GEZANとMillion Wish Collectiveは嵐のように去っていった。

「音楽って無力なんかな」と悩んでいたと語ったマヒト。もしかしたらそうなのかもしれない。でも以前は圧倒されるだけだった僕は、今日ここで僕ら一人一人を立ち上がらせてくれる大きな優しさと出会えたんだ。もちろんGEZANの表現の変化でもあるが、僕がそう感じられたのは少しは自分の選択ができるようになってきたからだと思っている。それはGEZANやフジロックのようなフェス、音楽に接し続けたからだと確信を持って言える。

全身全霊で踊り倒していたみんなは何を感じていたんだろう。僕にそれを知る由もないが、ここで感じたことを胸にこれからどうするかはそれぞれの選択に委ねられている。苗場の地を濡らした大雨はもうやんでいた。

[写真:全10枚]

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8/22 SUNRED MARQUEE