FUJIROCK EXPRESS '21

LIVE REPORTRED MARQUEE8/22 SUN

羊文学

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Photo by 粂井健太 Text by 阿部仁知

Posted on 2021.8.26 07:50

不安や焦燥感を轟音で昇華するダイナミックなバンドサウンド

2016年のルーキーからレッドマーキーへと駆け上がった羊文学。昨年メジャーデビューし加速度的に注目を集めているタイミングだけに、この3人のライブを観ようと早くから多くの人が詰めかけている。さあ、どんなライブが観られるだろうか。

Juana MolinaのSEから登場した塩塚モエカ(Vo / Gt)と河西ゆりか(Ba)のお揃いのキャミソールワンピースと、全身真っ黒のフクダヒロア(Dr)のコントラストがいきなり目を惹く羊文学の3人。冒頭の“mother”から、荒々しいギターサウンドと、どこか陰を持ちながらも力強い歌声にレッドマーキーは圧倒される。たくましく歩みを進めるようなドラムと、ルート弾きの一音一音がずっしりしたベースが支えるリズム隊。何も余計なものがないスリーピースバンドの無敵な感じ。真っ白なスクリーンが後光のように照らす3人の姿は神々しくもある。

オルタナの静と動のダイナミズムを存分に感じさせる“人間だった”に、ガレージ感のある軽やかなリズムの“ロマンス”とサウンドの幅広さを見せる中でも、際立つのは塩塚のギターが鳴らす轟音と、その中でも輪郭を失わない歌声だろう。“1999”でも世紀末のモチーフにやりきれない気持ちや焦燥感を託しながら、空間を埋め尽くすギターロックサウンド。僕は4年前に同じ場所で観たSlowdiveのライブを思い出していた。“砂漠のきみへ”では、音の嵐を貫くような塩塚のギターソロにうっとりとしてしまう。

「一番後ろの人ー!前の人ー!」と手を振る塩塚。「見てくださってるみなさんがいるからここでできてます」と丁寧にオーディエンスへの気持ちを語る彼女だが、迫真の演奏から一転して気の抜けたようにふにゃふにゃ喋るギャップは、なんだか昨日観たザ・クロマニヨンズの甲本ヒロトっぽい。でも思わずヒロトに向けて突き上げたものと同じ拳をグッと握る、王道のバンドサウンドを羊文学は奏でている。

「フジロックでやれたらいいなと思ってた」と、メジャーデビューアルバム『POWERS』から立て続けに披露。スローな3分のリズムで重いグルーヴを刻む“ghost”にゆったりと揺れ、“powers”では伸びやかな歌声が響くゆったりとしたバンドが途中から加速していく展開力に思わず唸ってしまう。音源よりはるかにダイナミック。サニーデイ・サービスやサンボマスターのようないわゆるライブバンドのひとつに、羊文学も確実に名を連ねるだろう。リズムの緩急が気持ちいい“マヨイガ”では、夜とはまた違うミラーボールの光が輝き、最終日夕方のレッドマーキーは感慨に浸っていく。

「あっという間だねー」と語る塩塚だが本当にそう。3人とともに刹那的な夏の感傷にもっと浸っていたい。続く“夜を越えて”でも縦ノリをする人や横に揺れる人、塩塚の真摯な歌声にただ聞き入る人など、レッドマーキーには様々なフィーリングが混在している。度々中央で音を確かめるように向き合う3人のあの感じ。本当にいいバンドだ羊文学。

晴れやかなアルペジオと河西のコーラスが映える“あいまいでいいよ”に、ずっと気を張り続ける僕らはなんと勇気づけられたことか。もちろんルールは守るが、極端にシリアスに捉えて心がやられることも多かった昨今の日常に響くメッセージだ。最後の“祈り”でも、ざっくりしたギターストロークに乗せて不安や孤独感を歌とサウンドに昇華し切って、しめやかな余韻を残し3人は去っていった。

ステージの規模に比例するようにスケールを大きくしていく羊文学のバンドサウンド。次はホワイトステージあたりで体感したい。願わくば海外のインディーロックバンドもラインナップされた「ノーマルなフジロック」で。

[写真:全10枚]

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8/22 SUNRED MARQUEE