FUJIROCK EXPRESS '21

LIVE REPORTFIELD OF HEAVEN8/20 FRI

坂本慎太郎

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Photo by 平川啓子 Text by 石角友香

Posted on 2021.8.21 02:11

伝説は現実によって更新された

国内での本格的な単独公演がプレミアム過ぎて、この日のステージを待望していたファンは相当数いたんじゃないだろうか。21時半から1時間半、これはもう単独公演レベルのセットリストだ。

暗がりのステージにメンバーが登場すると、口琴のようなギターの音、意外と重低音がしっかり足元から上がってくるドラムなどに坂本慎太郎のバンドがそこにいるのだなと感じる幕開け。ヘヴン前方を広くプロジェクション・マッピングで細胞や血管めいた蠢く光の演出。ステージは見えないが、魂が発信されているような“できれば愛を”の幕開け。坂本慎太郎(Vo/Gt)をはじめ、AYA(Ba)も菅沼雄太(Dr)もエモーションで演奏するタイプとは真逆の規則性で、端的に人力のループを作っていく。感情の爆発はもっぱら西内徹(Sax/Flute)のサックスがハプニングのように激しくブロウされるところが象徴的だ。

子どもでもわかる言葉で、しかもエロい単語は使っていないのにエロスが漂う“仮面をはがさないで”はきっとベースに粘っこいエフェクトがかかったことも、その印象を強めたのだろう。この曲のエンディングは珍しく、全楽器がフル・ボリュームでカオティックに音を重ねていった。坂本さんは時々短く「ありがとうございます」という程度。

シュール極まりない濡れたズボンと土手にさされた棒のことが淡々と歌われる”ずぼんとぼう”の各楽器の意図的なズレで起こるトリップ感。しかしそれも坂本慎太郎個人のキャリアが生み出したものだけに、世界に似たものもないだろうし、誰かが今更真似できる類のものでもない。

ソロ作から比較的、満遍なく選曲しているのだけれど、坂本さんの歌詞の一貫性――“君はそう決めた”での恋をしたり、けんかしたりしたいという、飾りがちな言葉を一切用いないアウトプットの仕方。その手法は心にスッとメスが入れられて中身を見せられたような気分になる。ベクトルは違うけれど、この素直なのか肝が据わってるのか、難しくないのに言い得て妙という感覚は坂本慎太郎と曽我部恵一という偉大な詩人に共通するものだと思う。ライブは生音を体感することだけが醍醐味じゃない。改めてその人の歌詞の構造に感動する音と一緒になった際のタイミングもかなりの醍醐味だ。ディスコは必ずしも踊るためだけの場所じゃないことを歌い、しかも男女の恋だけでもないし、時に一人にもしてくれると歌う“ディスコって”から、“ナマで踊ろう”への流れで、歌詞がスコーンと頭に入る。

さらに、コロナ禍以降の日常や人生を彼らしい言葉、しかも裏も表もないそのままが活きる“ツバメの季節に”が最後に演奏された。珍しく時代に接近したということではなく、彼はずっと平易な言葉で人間や社会の違和感や滑稽さを自分もインクルードして書いてきた。

淡々とループする人力のトランス感覚の中に残る素面の部分。このバランスこそが我々が坂本慎太郎というアーティストが代替不可能な理由だろう。やるなら意図が伝わるしっかりしたボリュームのステージを望んでいたのだろうか。ゆらゆら帝国から続く、フジロックにおける坂本慎太郎の歴史が更新された2021年の夏。その場に存在できたことを感謝したい。

[写真:全5枚]

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8/20 FRIFIELD OF HEAVEN