FUJIROCK EXPRESS '22

LIVE REPORTGREEN STAGE7/30 SAT

折坂悠太 (重奏)

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Photo by HARA MASAMI Text by 石角友香

Posted on 2022.7.30 17:01

日常の営みをとめない試行錯誤を続ける決意

昨年は直前に出演辞退した折坂悠太。熟考された文章の中でも自分の伺いしれない死角で誰かが苦しむかもしれないからという理由はこの時代に於いて絶対は存在しないことを再認識させた。そして昨年、折坂はテレビドラマの主題歌などでポピュラーな存在になりつつあった中、外に開かれたわかりやすい作品ではなく、重奏バンドとともに内側を見つめるアルバム『心理』を完成させた。当然のことだが、ライブ活動も作品も、例えば「こんな時勢ですが、前を向いて行きましょう」というような表現はしてこなかった。自分たちの“民族音楽”を作るように、作曲し、セッションし、作った音楽を手がかりに歩いてきた、そんな感じだ。

今年1月に朝霧JAMのキックオフイベントで彼らのライブを見たときは地元富士宮市の方々が多いせいもあって、丁寧な初対面の挨拶を特に念入りにしているように思ったが、折坂は今日も「折坂悠太と申します」と、いつも通り丁寧な挨拶をしていた。スタートはガットギターのストロークにハラナツコ(Sax)のフレーズも加わり、風を運んでくるような“さびしさ”。苗場の木々にこだまするように放たれる〈風よ〜このまちに吹いてくれ〉のロングトーンには胸がすく思いだ。

2曲歌ったところで、昨年は悩んだまま辞退したことを吐露する。そして「去年の状況と今年の状況と何が違うのか、答えられません。参加した知り合いからは1997年のフジロックも大変だったと訊いております。場所などを変えていまの祭りになったんだろうなと思います。私も試行錯誤しながら営みを続けようと思います」と、偽りのない言葉を発する。去年は諦めたが、今年はようやく参加した人も多いようで、折坂のこの言葉に重なる思いの人も多かっただろう。

多くの人が知る“朝顔”も、盛り上がるのは後奏の民謡的な部分で、グリーンステージが日本のトライバルに染まっていく。さらにスリリングな“針の穴”や、昭和のハードボイルド映画を思わせる“鯱”へと続く。6人全員が自らの分身のようなフレーズや打音でグルーヴに飛び込む。グルーヴを作りながら、ここぞと音で飛び込んでいく。ハラのサックスと山内弘太(Gt)のギターが悲鳴のように鳴り響き、他の演奏者も荒れた海を航海するように渾身のフレーズを差し込み、そして大きな渦を作っていく。前方の日陰にいても暑い時間帯だが、夏山というより、足のつかない海で重奏バンドの舟に乗り込もうとしているような心地だ。

ごうごうと音を立てるステージの音がやんだ瞬間、senoo ricky(Dr)のバックビート気味のキック&スネアから、徐々に“トーチ”のイントロへ。butajiとの共作曲であるこの曲は淡々としたアコースティックな佇まいから、ずいぶん力強くて素朴な、なんならアメリカン・ロックの感触すらあるアンサンブルに変化していたのだ。恐るべし重奏バンド。

そしてロマ音楽やサンバを昇華した“心”がタフな楽団のムードを強め、〈例えばおれは、いつかの蜂 それを思えばちょっとは笑ってくれるかな?〉というセリフをループさせながら、「ご静聴賜り、ありがとうございました」と口上を述べ、ラストの“芍薬”へ。折坂バンドの音楽はいまのわれわれの民族音楽であると同時に、労働歌でもあるなと感じた。まさに日々の営みを続けていくための問いかける力と前進のための燃料となる音楽。その一旦の有りようをしっかり受け止めた。

グリーンステージつめかけたオーディエンスの集中力は高く、終演して一気に暑さに気づく、そんな1時間でもあった。

[写真:全10枚]

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7/30 SATGREEN STAGE