LIVE REPORTWHITE STAGE7/31 SUN
BLACK COUNTRY,NEW ROAD
今を楽しむドラマチックなストーリーテリング
明らかにグッズのTシャツを着た人が多い。昨年の『For the First Time』、今年の『Ants From Up There』と立て続けに傑作をものにしたのも束の間、メインヴォーカルのアイザック・ウッドが脱退、その状況で全曲未発表の新曲のセットリストでフジロックに来ると宣言。そのことが大いに話題となった今年ナンバーワンの注目アクトの一つ、ブラック・カントリー、ニュー・ロード(以下:BC,NR)のライブを見ようと多くの人が詰めかけている。
なにせ(一応YouTubeに先行のライブ動画はあるが)ほとんど誰も曲を知らない状況でのライブなのだ。ホワイトステージには何が起こるかわからない期待感が渦巻いている。だがこの期待をさらに超えてくる、重厚かつはじけるように楽しいライブを6人は披露してくれた。
思わずどよめいたSEの“Seven Nation Army”(昨日ジャック・ホワイトも演奏したらしいですね!)に続いてあらわれた6人。みんなフジロックのグッズのTシャツを着ていて、ジョージア・エラリー(Vn)に至っては渋谷のBIG LOVE RECORDSのTシャツを着ている。スネイル・メイルも「フジロッカーみたいな出で立ちだな」と思ったものだが、やたらとフレンドリーな雰囲気に期待感はさらに高まる。
1曲目の“Up song”ではタイラー・ハイド(Ba)がヴォーカルを務め、みずみずしいメイ・カーショウ(Key)のピアノに浸っていたら突然ハードなバンドサウンドになったり、ピアノ→ギター→サックスと輪唱のように展開したりと、早速様々な展開を見せる6人のバンドセット。だが『For the First Time』のようなポストロックというよりは、展開にワクワクしながら楽しく踊れるヴァンパイア・ウィークエンドのような仕上がりだ。続く“The Boy”ではアコーディオンを弾きながら歌うメイや、弓でベースを弾くタイラー、サックスからフルートに持ち替えたルイス・エヴァンス(Sax)など、チャプター1〜3と緩やかに流動する曲の中で、柔軟に楽器を持ち替えていく。
「ありがとうございます!こんにちはフジロック!」と日本語で投げかけるメイ。これだけで気持ちも高まるが、続く“I Won’t Always Love You”でもタイラーが歌いながらルイスのフルートとメイのピアノを指揮したり、“Across The Pond Friend”でもジョージアのヴァイオリンからチャーリー・ウェイン(Dr)のダイナミックなドラムやルイスのヴォーカルも合流して、最後はカオティックなバンドセッションに帰着したりと予期せぬ展開に驚かされるのが気持ちいい。
ここまで来てなんとなく合点がいったことだが、BC,NRのパフォーマンスは曲構成にもセットリストの組み方にも潤沢なストーリーテリングが流れているように感じる。クラシカルなピアノにジャジーなドラムなどの様々な要素が、時にしめやかに、時にダイナミックにノンヴァーバルな物語を奏でている。リリックがもう少しわかればさらに感じるものは増えるだろう(未発表の新曲にそれを感じられないのは自分の英語力を恨むしかないが)。
ルイスのフルートとルーク・マーク(Gt)のギターでしっとりと始まる“Laughing Song”は聞こえている以上に複雑なリズムが感じられることを素直におもしろく思ったし、ジェフ・バックリィのような情感からバンドサウンドに発展していく“The Wrong Trousers”ではヴォーカルのルイスがクルッと回ったり、奔放で上機嫌な様子を見ているとこちらも嬉しくなってくる。
極めつきは“Turbines/Pigs”で、メイの歌声とジョージアのヴァイオリンの柔らかいセッションを、残りの4人はステージに座ってビールを飲みながら僕らと同じように聞き入っているじゃないか。でもしばらくして立ち上がるとバンドは荘厳なサウンドを奏で、最後の“Dancers”でバンドみんなで歌う様子はベル・アンド・セバスチャンのようでもあり、幸福感に浸りながら物語は終幕を迎える。感極まったのか涙するテイラーがルークとハグをし、メイとジョージアと肩を抱き合いながらステージを後にしていった様子は、今年のフジロックでも屈指のハイライトだったに違いない。誰もがドラマチックな情感を共有したことだろう。
一方でアイザック・ウッドの不在を感じさせるライブだったともいえるが、BC,NRのこれからに心配はいらないだろう。それぞれの新たな人生を讃えながらバンドはまた次のステージを歩んでいく。そんなことが感じられたライブが終わり、僕はホワイトステージに残る爽やかな余韻に浸っていた。
[写真:全10枚]