LIVE REPORT - GREEN STAGE 7/28 SUN
ずっと真夜中でいいのに。
やっぱり僕はACAねのことが気になって仕方がない
そろそろ日も暮れてきそうな、フジロック最終日のグリーン・ステージ。後方ではたくさんの人たちが椅子に座って過ごしていて、疲れで少し気だるそうにしながらも、今日までのフジロックの思い出を居合わせた人と楽しそうに話したりしている。いつものグリーン最終盤の光景だ。
残すところあと2組。「ああ、今年もあっという間だったなあ」なんて思いながら歩いていくと、前方の柵のエリアはほぼ埋まっているようで、しゃもじをもったちびっ子を何人も見かけた。写真撮影禁止のマークが大写しにされたスクリーンは、単に注意喚起である以上に、これから始まるライブへの期待感を膨らましてくれる演出のようにも見える。2019年のレッド・マーキー、2022年のホワイト・ステージのトリ前の出演に続いて、ついにずっと真夜中でいいのに。(以下、ずとまよ)がグリーン・ステージのトリ前に登場だ。
Open Reel Ensembleの3人による、オープンリールとTVドラムのセッションからライブはスタート。今回はTVドラムが上段に配置されたセットのようで、「コンバンワー」の声を起点に演奏が広がる様子は、昨日のヘッドライナーのクラフトワークのニュアンスも感じられる。“眩しいDNAだけ”で、「ずっと真夜中でいいのに。です」と投げかけるACAねの声が、なんだかやたら凛々しい感じがする。チェーンソーのようなものを持っているが、ACAねを絶妙に映さないカメラワークでなんだかよくわからない。
続く“お勉強しといてよ”ではキメのフレーズのところでキックを連打したり、ホーンセクションが派手に盛り立てたりと、ライブアレンジが更に際立っているように感じられる。リアルタイムのライブ映像にノイズをコラージュするサイドスクリーンも、まるでコーチェラのヘッドライナーの配信を観ているみたいなスケール感だ。MVを投影した“嘘じゃない”も、物語の中に迷い込んだような情感があって、あらゆる面でグリーンの規模に進化しているバンドの躍動に、はやくもゾクゾクしっぱなしだ。
暗くなってきたグリーン・ステージ。緑と青のライティングが映える“消えてしまいそうです”に続いて、“上辺の私自身なんだよ”ではダウナーなトーンのベースと歪みの効いたギター、そしてACAねの伸びやかな歌声が空に染み渡り、夜のグリーンではお馴染みの森へのレーザーも投影。吹き荒れるスモークと後光のようなライティングの中で歌うACAねの姿は、もうこの光景がそのまま映像作品のようで、思わず息を呑んでしまった。
ACAねが「今日ずっとひきこもってたんですけど、雨降ってなくない?降ってない?よかったです、じゃ、次」とさらっと投げかけたと思ったら、まさかの未発表の新曲!奥地のフィールド・オブ・ヘヴンの夜のようなミラーボールの光がステージに投影される中、ACAねの力強いフロウにグリーンのオーディエンスはどんどん飲み込まれていく。
そして焦らし気味のベースソロから始まった“残機”が圧巻で、カラフルな電流が走るようなエフェクトが映像にコラージュされ、目の前で起こっている現実がどんどん拡張されていく。でもそんな演出や圧巻のバンドセッションが繰り広げられる中でも、ライトセイバーのようなものを少し気だるそうに振りながら歌っている、リアルのACAねに一番目を奪われるのはなんなのか。PA前くらいから遠目に見ていても一番動きが少ないくらいなのに、グリーンの規模でも際立つACAねの存在感には驚くばかりだ。
三味線とオープンリールが躍動する“機械油”で、日本語?中国語?みたいないろんな漢字がフラッシュしたかと思ったら、「歌詞じゃんこれ」って徐々に気づくような表現の塩梅もまたニクい。ヒップホップのようなフロウをちょっと気だるそうに繰り出すACAねもまたニクい。そして、オープンリールもガンガン絡んで賑やかしながら、むしろサビの余白と立体感で魅せるアレンジが光っていた“綺羅キラー”。扇風琴をかき鳴らして、ラップパートではフジロックバージョンのラップを披露。そこからサビに入った時の高揚感といったらもう!
ピアノやホーンがガンガン賑やかす“秒針を噛む”でもオープンリールが暴れ回り、最後のブレイクの弾き語りのところに三味線を混ぜてきたりと、ハッとするアレンジがどんどん冴えてくる。それにしたって“マイノリティ脈絡”の「られんよ」の言い回しは何度聞いてもドキッとするし、他にも無数に出てくるが、こういう微細なニュアンスで僕らをくすぐってくるのがACAねの真骨頂だろう。そして「よかったら一緒に踊ってくれますか」と投げかけ、みんな大好きな“あいつら全員同窓会”でグリーンのたくさんのオーディエンスがジャンプ!グリーン・ステージでこれができるのはなんとも感慨深かった。
僕の見た範囲ではライブ中誰一人撮影していなかったが、そんなことをする暇もないくらい目の前で繰り広げられている光景が凄まじい。僕ももはやTVドラムや扇風琴のものめずらしさに触れている場合ではない。もちろんふと通りかかって見た目の面白さに惹かれる人もたくさんいただろうが、そういった部分がトリッキーな飛び道具などではなく、ずとまよバンドの強度と説得力として馴染んでいるのをまざまざと感じたのだ。
僕は2022年のホワイト・ステージではじめて観て衝撃を受けて、それから単独公演やサマソニとソニマニでも観てきたから少しはずとまよのことがわかった気でいた。でも初めて観た時と同様にまたもやあっさりと想像を超えてくる。展開や演出に唖然としてしまうタイミングが何度もあったし、グリーントリ前の出演もまったく大抜擢などではない、ものすごいスケールのパフォーマンスを心ゆくまで堪能した。でも本当に驚いたのはこの後のACAねのMCだ。完全に正確ではないが、大意を書き起こさせてほしい。
「ちょうど5年前くらい前にはじめてフジロックのレッド・マーキーでやらせてもらって、それまでライブってほとんどやったことなくて、ライブをすることが全然好きになれなくて、でも出演した時本当にライブが楽しいと思えて。今日こうしてグリーン・ステージでできてることが、本当に本当に嬉しいです。フジロックにいつも来てる方は、ずとまよがグリーン・ステージなんてまだまだ早いと思っている方もいるかもしれません」
「そんなことないよー!」と前方のオーディエンス。当たり前だ。こんな凄まじいライブ体験をさせてくれて何を言うんだACAね。でも何か思うところがあったのだろう。
「来てくれた人、たまたま見かけてくれた人、ありがとうございます。昨日くるりの岸田さんが話してたことを聞いて考えさせられて、私は引きこもり体質なんですけど、私にとって音楽って、どうしようもなくて起き上がれない、近づいたり遠のいたりしながらもそばにいてくれるもの。こうやって音楽、バンド最高だなって思えたのはフジロックのおかげです。必死にひたむきにやろうと思います。それしかないです。ありがとうございました。この後のノエルさん、私も楽しみ。じゃあ最後です」
もう本当にグッときてしまった。特にフェス出演のMCではほとんど本心のようなものは見えなかったACAねが、ここまで赤裸々に音楽やバンド、フジロックへの想いを吐露してくれるなんて。僕はACAねのことを何もわかってなかったのかもしれない。国内有数のプレイヤーが揃ったバンドとACAねの絆が改めて感じられた気がしたし、そんなACAねの気持ちが滲んだ“暗く黒く”がどれだけ染みたことか。
後半のメンバー紹介のパートで僕の頭の中に今日のライブが走馬灯のようにフラッシュして、その意味がすべて塗り替えられたような気持ちになった。最後には大量のスモークがばーっとあがって、晴れてきたら「ずっと真夜中でいいのに。」のロゴがあらわれる。とても晴れやかな気持ちだ。
2022年に観た時ははじめての体験の興奮から僕は「ACAねのことが気になって仕方がない」と書いた。でも今回のフジロックを通して改めて感じたのだ。やっぱり僕はACAねのことが気になって仕方がない。
[写真:全2枚]