LIVE REPORT - FIELD OF HEAVEN 7/25 FRI
KIRINJI
堀込高樹のダンディズムが生きる、いまの音
トリプルファイヤーのあと、一瞬雨が降ったのだが、13:30を前に雲が移動。この時間のFIELD OF HEAVENらしい暑さで立っているだけでも汗が噴き出すが、KIRINJIガチ勢はもちろん、フジロックでKIRINJIが観られるなら!と、普段は椅子でラクに観られるエリアも立ち見のオーディエンスで満員大盛況。意外なことに堀込高樹(Vo/Gt)の長いキャリアのなかで今回初のフジロック出演である。
何度もツアーをともにしてバンド感を増したサポートメンバー、小田朋美(Vo/Syn) 、シンリズム(Gt/Cho) 、千ヶ崎学(Ba) 、伊吹文裕(Dr)、 宮川純(Key)に加え、今日はMELRAW(Sax)と真砂陽地(Tp)を加えた大所帯がステージに現れる。2021年の『crepuscular』以降のソリッドな時代認識や日本のヒップホップのとの接近、近作『Steppin’ Out』と前後して新しい日本のジャズ、ファンクシーンで自身のバンドを持ち、J-POPフィールドでも活躍する小田や伊吹、宮川(ふたりはLAGHEADSのメンバー)のようなミュージシャンと活動していることはきっとフジロック初登場と密接な関係があると思う。作品性と実際のライブが特に今年のフジロックのラインナップを好むオーディエンスに響かないはずがない。
オープナーは本格的にコロナ禍があけ、気持ちが外に向かう予感に満ちた時期の心象を鮮明に描く“Runner’s High”が、1曲目にふさわしい。その上、高樹の熱唱によって、一期一会に賭けるパフォーマーの胆力を見せる。素晴らしいソングライターなのは十分知られていることだが、いまの彼は弾き語りツアーも行う歌の表現者でもある。続いてアルバム『愛をあるだけ、すべて』から“非ゼロ和ゲーム”、“時間がない”を届けてくれた。自分でも「長年やってるんですけど、フジロックはこれが初めて」と、端的に事実を話すだけで大歓声、である。肌感だが、今日1日券のお客さんにはKIRINJI目当ての人が多そうだ。さらにそのサウンドはクールネスを醸し、メタ的には都会の夜である“killer tune kills me”。丸くコケティッシュな小田のボーカルの存在感が強い。さらにラップのようにハングルを繰り出す高樹の洒脱さもこの暑さを凌駕する空気感を持っていた。
中盤には「古い曲を」と、最近のビルボードライブでも披露していたらしい“Drifter “のイントロが。歌い出しに特に男性ファンの歓声が多くあがった。男の背中に重なるモロモロ、恋をとうにすぎた愛のような感情。大きな声では言わないけれどきっと守る存在のこと。素晴らしいソングライターは言葉について異常なほど繊細な感性の持ち主でもあり、焼け付くような日差しのなかでさえ、とある夜のことと重ねていい年齢の男性陣がそっと涙を流したに違いない。
フェスティバルという非日常な空間で思い切り琴線を震わしたあとは千ヶ崎のタフなベースが牽引するちょっとシュールな人気曲“Pizza VS Humburger”が、高樹の「ハンバーグの方は手を挙げて。ピザの方は手を挙げて」という、これまたシュールなオーディエンス参加で展開する。フジロックでこの曲の披露を期待していた人も多かったようだ。MCではニューアルバムの制作中であること、それが上手く行けば新作を携えての来年のツアーになることを伝えて、ラストもオープニング同様、近作から一歩表に出ていく気概が溢れる“Rainy Runway”で締めくくったのだった。大人の余裕というより、曲と演奏で本意を伝えるベテランのストイシズムに痺れる1時間だった。
[写真:全10枚]